教室の透明人間をなくしたい。外国ルーツの子どもを支える日本語教育「YSCグローバル・スクール」

「教室の透明人間」という言葉を耳にしたことがありますか?
これは、小説やSF映画のタイトルではありません。今、日本全国の学校で起きている「ある切実な現実」です。ちゃんと席に座っている。でも、先生が何を言っているのかよくわからない、教科書も読めない、誰とも話せない。だから息を潜めて、空気のように「いない存在」になっている。それが、日本語がわからずに日本の学校に通う「外国にルーツを持つ子どもたち」の姿です。遠い異国で、助けを求める言葉も持たず、独りぼっちになってしまったときの不安と恐怖…皆様にも、きっと想像できるのではないでしょうか。悲しいことに、何の支援も受けられないまま、社会的に孤立してしまう子も少なくありません。
そこで今回は、海外にルーツを持つ子ども・若者たちに専門的な日本語教育と学習支援を、日本社会で生きていくための学びを届けている「YSCグローバル・スクール」についてお話ししたいと思います。言語の壁を乗り越え、互いの文化や価値観を認め合い、共に生きていく —そんな“多文化共生”の社会を、この日本で実現していくための大切な取り組みです。この記事が、皆様の心に“地球市民”としての優しさが芽生えるキッカケになってくれたら嬉しいです。

東京福生市を拠点に活動するNPO「青少年自立援助センター(YSC)」さんが運営している教育支援事業です。「多様性が豊かさとなる未来」を実現するために、数十ヵ国にルーツを持つ子ども・若者への専門的な日本語教育と学習支援に取り組んでいます。
言語の違いを理由に学ぶ機会を奪わせないために、ただの日常会話ではなく、学校の授業についていくための学習言語としての日本を教えているのが特長です。さらに、子どもにとって最初の大きな壁となる「高校受験」を突破するための教育支援にも力を入れています。もちろん、全国各地の子どもたちに専門的な支援を届けるため、オンラインによる日本語教育も実施しています。
参考:NPO法人青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」

その公共性が認められ、2024年には内閣府「休眠預金活用事業」の助成金分配団体にも選ばれています。

2.学びたくても、学べない子ども「教室の透明人間」

2-1. 日本へ移住する人々
人口統計によると、2025年6月末時点の在留外国人数は約396万人に達し、過去最高を更新し続けています。かつては短期の出稼ぎが中心でしたが、現在は日本の人手不足を背景とした「就労ビザによる長期定住化」が進んでいます。また、ウクライナやアフガニスタンなどの紛争や迫害から逃れた難民申請者も年間1万人を超えます。単身者だけでなく、家族ごと日本に移り住むケースも珍しくなく、それに伴い、外国にルーツを持つ子どもたちも増えています。彼らは、もはや一時的な滞在者ではなく、すでに日本の未来を共に担う大切な一員となっています。


これからの日本では、言語や生活習慣などの文化的違いを認め合い、対等な関係を築き、共に生きていく“多文化共生”の考え方が、ますます重要になります。
参考:法務省-出入国在留管理庁「在留外国人統計(令和7年6月末現在)」
2-2. 急増する「日本語指導が必要な子どもたち」
深刻な人手不足を抱える日本にとって、外国からの移住者が増えることは大きな力になります。しかし、その一方で、教育現場では新たな課題も生まれています。文部科学省の調査によると、令和5年度における「日本語指導が必要な児童生徒」は6万9,123人 —この10年間で約1.9倍の急増ペースです。教育現場では対応が追い付いておらず、約1割の子どもは必要な日本語指導を受けられていないのが現状です。

参考:文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果」
2-3. 人生に立ちはだかる「15歳の壁」
日本社会において、高校卒業資格は、就職や自立のためのパスポートのような役割を持っています。けれど、日本語を十分に理解できない子どもたちにとって、「高校受験」はとても高いハードルであり、人生に立ちはだかる「15歳の壁」とも呼ばれています。義務教育が終わる15歳という若さで社会に放り出されてしまうと、自立もままならず、経済的に困窮しやすい傾向にあります。

また、高校に進学できたしても、卒業までたどり着くのは簡単ではありません。文部科学省の調査では、日本語指導が必要な高校生の中退率が、一般的な高校生に比べて約7倍も高いとされています。加えて、「不就学」の問題もあります。同調査では、約1万3,000人の外国人児童が、学校に通っていない可能性があることも明らかになっています。

日本語学習は、学校の勉強についていけるようになるまで5~7年もかかると言われてるんだ。
参考:文部科学省「令和6年度 外国人の子供の就学状況等調査結果」
2-4. インターナショナル・スクールでは解決できない
「外国の子ならインターナショナル・スクールに行けばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、そこには経済面と制度面での壁があります。まず、インターの学費は、年間150万〜250万円と極めて高額であり、基本的には富裕層向けの教育インフラとなっています。多くの一般家庭にとって現実的な選択肢とは言えません。また、インターの多くは学校教育法に基づく「一条校」ではないため、日本の高校卒業資格が得られないケースもあります。授業も英語で行われるため、日本社会で生きていくために必要な日本語力を身につける場にはなり得ないのです。
参考:オンラインインターナショナルスクールJOI「インターの学費負担(2024年6月)」
3.「YSCグローバル・スクール」の取り組み
海外にルーツを持つ6歳以上の子ども・若者を対象にした日本語教育と学習支援、就労・定着支援を提供しています。学校に通うために日本語を学びたい子どもから、安心できる居場所を必要とする若者、日本社会で支えあえる仲間が求める人まで、様々なニーズに応える「学びと繋がりの場」であり、年間300名以上がこのスクールに集まっています。

参考:NPO法人青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール|活動内容」
➀ 将来のキャリアパスを拓く「伴走型学習サポート」
YSCグローバル・スクールの特長は、日本語を教えて終わりにしない点です。大切にしてるのは、日本社会で生きていくために必要となる「実践的な日本語」。年間200日以上、朝9時から夜7時まで、子どもの年齢や発達段階に合わせた様々な学習カリキュラムを用意しています。
特に力を入れているのが、将来のキャリアパスに直結する「高校受験」の支援です。中学生向けのプログラムでは、学習言語の習得に重きを置きつつ、受験科目ごとの対策指導を行っています。また、中学生3年生になると、経験豊富な多文化コーディネーターが伴走。受験情報の提供や志望校の選定、進路相談、願書の書き方など、合格までのプロセスを1つひとつ丁寧にサポートしてくれます。その結果、これまでに200名以上の卒業生が高校進学を果たし、それぞれの人生を歩み始めています。


ほとんどの場合、YSCでの学習日数が、在籍校の「出席」として認められるんだ。ここも嬉しいポイント。
② 空白地帯を埋める「オンライン学習支援」
外国人が多く集まる都市部では、自治体による支援が比較的充実しています。また、外国人コミュニティーも存在するため、必要な情報やサポートにアクセスしやすい環境があります。対照的に、地方に住む子どもたちは、情報や支援にアクセスできない「空白地帯」に置かれがちです。そこで、YSCグローバル・スクールでは、コロナ過以前の2016年からいち早く、オンライン教育に取り組んできました。この仕組みによって、日本全国どこに住んでいても専門的な日本語教育を受けられるようにしています。


日本語を教わるだけでなく、言葉の壁で孤立しがちな子どもが「安心して繋がれる居場所」としても機能しています。
③ 若者・生活者向けの日本語教育プログラム
日本語がわからない不安は、子どもだけでなく、その保護者にとっても深刻な問題です。学校から届いたプリントが読めない、先生と十分に話せない、受けられるはずの行政サービスや支援への申し込みが込みができない、といった日常的な困難があります。YSCグローバル・スクールでは、日本語を勉強する場所が見つからずに困っている外国人の保護者や、日本で働きたい海外ルーツを持つ若者、難民の方を対象に、日本語レベル(N3~5)に応じた各種プログラムも提供しています。


運営母体であるYSCさんでは、子ども・若者の「学びたい」「働きたい」「自立したい」を叶えるために、切れ目のない包括的な支援を届ける独自のネットワークを構築しています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
日本で暮らす外国にルーツを持つ子どもたちは、今や決して特別な存在ではありません。同じ日本社会で暮らし、これからの未来を共に生きていく大切な仲間です。けれど、「日本語がわからない」という理由だけで、学校や社会で孤立してしまっている子がいるのも事実です。先生の話が理解できない、教科書が読めない、誰にも相談できない…教室の隅で、静かに息を潜めながら、まるで「透明人間」のように過ごしている子どもたちがいます。もしかすると、この現実は、皆様の住む地域の学校でも起きているかもしれません。
でも、そんな子どもたちが再び「彩り」を取り戻せるよう支援している場所があります。それが、YSCグローバル・スクール —実践的な日本語を学ぶ場所、人生の進路を考える場所、そして、「自分はここにいていい」と安心できる居場所。そんな学びと繋がりの場があることは、子どもたちにとって一筋の希望と言えます。私たち1人ひとりがこの現実を知ること、他の誰に伝えること。それもまた、社会をより良くするための小さな貢献になります。この記事を読んで、皆様の心がほんの少しでも動いたなら、ご家族や友人と、YSCグローバル・スクールの取り組みについて話してみてください。それが「多様性が豊かさとなる未来」へと繋がっていくはずです。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。 それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。


