人と社会

「インスタリム」の義足は、自立して生きる暮らしを、貧困に立ち向かう力を取り戻してくれます。

otobokezizou

 皆様、こんにちは。

 今年は、パリ2024パラリンピックが開催される年。障害を持つアスリートさんたちが創意工夫を凝らして己の限界に挑むパラリンピックには、多様性を認め合い、誰もが個性や能力を発揮して活躍できる「共生社会」実現への願いが込められています。そして、このイベントを通して発信されるメッセージや価値観は、私たちにより良い社会を築くための気づきを与えてくれます。そんなパラリンピックまで3ヵ月を切りました。そこで今回は、義肢装具にまつわる社会課題をデジタルの力で解決しようと奮闘する「インスタリム」株式会社さんについてお話ししたいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、障害との向き合い方や共生社会について、少しでも関心を持って頂けたら幸いです。

インスタリム

 インスタリムさんは、「必要とする全ての人が、質の高い義肢装具を手に入れることができる世界」の実現に向けて、2018年に創業したスタートアップ企業です。現在、世界にいる9,000万人もの障害者が義肢装具にアクセスできず、社会への参加・復帰が阻まれている状況にあります。この社会課題を解決するために、これまでにない低価格かつ高品質な3Dプリント義肢装具をつくり、「義足が欲しくても、貧しくて買えない人たち」に届けるべく活動しています。主にフィリピンとインドを中心に事業を展開しており、最近では、義足を待ち望むウクライナ市民への支援も行っています。

=ミッション=

世界から、“立てない”、“歩けない”、“外に出られない”をなくし、世界中の可能性を開花させる

=ビジョン=

必要とする全ての人が、質の高い義肢装具を手に入れることができる世界を実現する

おとぼけ地蔵
おとぼけ地蔵

日本では、まだそれほど有名ではありませんが、月に約100本以上の義足を患者さんに届けているフィリピンでは、国内No.1の義足提供者として認知されています。

2. 義足を必要とする人たちの現状と課題

2-1. 義足を必要とする人たち

 義肢装具が必要な人は、世界に1億人以上いるとされます。しかし、そのうちの9,000万人以上が、生活困窮などの理由により義肢装具を購入できず、社会への参加・復帰が阻まれています。特に開発途上国では、歩けなければ、多くの人が仕事を失います。義足を買うお金はない… でも、義足がなければ働くことができない… 働けないからもっと貧しくなる… このような「貧困の連鎖」に陥り、抜け出せずにいる人たちが大勢いるのです。

2-2. 足を失う理由の多くは「糖尿病」

 「足を失う」と聞くと、悲惨な事故をイメージされる方が多いと思います。しかし、実際は、「糖尿病により足を失う」ケースが多いのです。糖尿病には、合併症として神経障害や血管障害が起きるリスクがあり、心臓から最も遠い足先から徐々に患者の身体を蝕んでいきます。それが進行すると、足の組織が腐ってしまう「壊疽(えそ)」に至ります。壊疽は治療が難しく、足を切断しなければ、命に関わるほど深刻なものなのです。

Diabeters

貧困層の人たちは、食事に十分なお金を掛けることができません。必然的に、最も安くお腹を満たせる炭水化物中心の食事を取っています。例えば、フィリピンの低賃金労働者は、塩辛い肉や魚の干し物をおかず山盛りの米を食べる「日の丸弁当」のような食生活を送っています。そのような生活が続けば、糖尿病を患ってしまうのも無理はありません。予備軍を含めると、フィリピンの成人男性の1/3〜1/4が糖尿病だとも言われています。これはフィリピンに限った話ではありません。

梅うさぎ
梅うさぎ

貧困のために糖尿病を患い、足を失い、歩けなくなった上に仕事を失う…そして、もっと貧しくなる…踏んだり蹴ったりだね。

おとぼけ地蔵
おとぼけ地蔵

そのような背景から、糖尿病は「貧困病」と呼ばれるほど、世界中で大きな問題になっているんだ。

もちろん、足の切断手術を受けるのにもお金がかかります。仮に手術によって命を取り留めたとしても、義足がなければ歩くことも、働くこともできません。そのため、「働けなくなるのであれば、家族に迷惑がかかる…それなら、足が腐って死んだ方がまだマシだ」と考える人たちが大勢いるのです。

2-3. 課題は、コストと供給量

Made to order

 義肢装具は、基本的にオーダーメイドです。私たちの身体に個性があるように、足の形や大きさ、切断部位も1人ひとり大きく異なるためです。通常、義肢装具士の国家資格を持つ職人さんが手作業で石膏を削り出し、患者さんの装着部位にフィットするように仕上げていきます。とてもアナログな手法のため、どうしてもコストが高くなりますし、たくさん作ることもできません。体重を支える義足であれば尚更です。日本でも、一般的な義足は、30~100万円と非常に高価です。貧困層・低所得者層の人たちでは、とても手が出せません。国際的な支援団体による義足の寄付活動なども行われていますが、需要を満たすほどの数はありません。このコスト高さと供給量の少なさが、義足を普及させる大きなボトルネックになっています。

おとぼけ地蔵
おとぼけ地蔵

この実情を知り、「世界から、“立てない”、“歩けない”、“外に出られない”をなくしたい」と立ち上がったのが、インスタリムさんです。

参考:慶應イノベーション・イニシアティブ「世界初“3Dプリント義足”が救う人々の命」

3. インスタリムの取り組み

 インスタリムさんは、「3Dプリンター」×「AI技術」を活用したデジタル義足製造技術をゼロから開発し、これまでにない低価格かつ高品質な義足の製造・販売を行っています。主にインド、フィリピン等の開発途上国にて、従来の1/10以下となる価格で、日本で使われているものと同等の高品質な義足を提供しており、2024年3月時点で、2,800本以上の義足を人々に届けています。

➀ 3Dプリンターによる義足製造の効率化

 3Dプリンターには、従来の切削加工や射出成型と比べて、低コストかつ短時間で製造できるメリットがあります。製造時に必要な金型や治具、大規模な設備も必要ありません。異なる形状のものをスピーディに、安定した品質で製造できるため、義肢装具のようなオーダーメイドなモノづくりに適しています。インスタリムさんは、独自開発した義足専用の3Dプリンターを開発し、従来の1/10以下となる価格での義足提供を可能にしています。

② AI技術の活用

 インスタリムさんの義足製造のもう1つの特徴は、AIによる自動設計(3D-CAD)を取り入れている点です。開発途上国では、十分な教育を受けることができなかった人たちが大勢います。しかし、そんな人たちでもスマートフォンなどのデジタルデバイスに関しては、私たちと同じように使いこなしています。インスタリムさんの設計システムを使えば、切断部位をスマートフォンで撮影するだけで3Dスキャンができるため、現地にいる普通の人たち(専門の高等教育を受けたわけではない人たち)でも1日程度の研修で義足を設計・製作することができます。

おとぼけ地蔵
おとぼけ地蔵

現在は、義肢装具士さんたちの手で、最後の補正作業が行われていますが、その補正差分をAIに学習させながら設計精度を高めています。

梅うさぎ
梅うさぎ

将来的には、人に依存しないフルオートでの義足完成が期待できるね。

③ 顧客直販モデルの確立

 デジタルの力によって得られたメリットは製造面だけではありません。リモートでの設計・製造を可能にしたことで、遠く離れた開発途上国の農村部にまで義足を届けられるようになりました。また、インスタリムさんは、2023年からライセンス事業を展開しています。自社の義足製造ソリューションをパッケージ化し、現地にある複数の義足制作所に提供することで、対象エリアを拡大し、義足を待ち望むより多くの人たちにアプローチしています。

4. 結び

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 私たちはいつも、失ってはじめて失ったものの大切さに気がつきます。自分の足で歩けること、教育が受けられること、働けること、安全な水が手に入ること、好きものを食べられること、帰りを待ってくれる家族がいること… 私たちが当たり前に享受していることは、本当はとても価値あることなのです。しかし、普段の生活の中で、それらを意識することはなかなかありません。ただ唯一、失う前にその大切さに気づく方法があります。それは、失った経験をされた人たちに関心を向け、彼ら彼女らの話に耳を傾けることです。世界には、貧困ゆえに歩けなくなった人たちがいます。貧困に、自立して生きる選択肢を奪われた人たちが大勢います。世界の悲しい側面に向き合うのは辛いことですが、今の自分がいかに幸福なのかを知るキッカケになるはずです。そして、それが恵まれた環境で生きる私たちのせめてもの責任なのだと思います。

自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。

インスタリム
ABOUT ME
おとぼけ地蔵
おとぼけ地蔵
エンジニア / 副業ブロガー
ご覧くださり、ありがとうございます。 1988年九州生まれのエンジニアです。 現在は大阪在住。半導体業界で働かせて頂いております。バリバリの理系ではありますが、少しだけ経営学も嗜んでおります。 和のテイストが大好きです。また、健康や心の平穏に重きを置いており、身の丈に合った慎ましい生活を心掛けております。
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