水で苦しむ人をゼロに。アフリカの大地にて、安全で公平な水利用を実現する「SUNDA(スンダ)」

皆様、こんにちは。
近年、アフリカ経済は目覚ましい発展を遂げており、都市部では水インフラが整備され、各家庭に水道が通っているところも珍しくありません。一方、その発展に取り残されている地域もあります。特に、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)の農村部では、実に4億人以上もの人たちが安全な水にアクセスできておらず、未だに子どもや女性たちが毎日何時間もかけて水汲みを行っています。そうして手に入れた水も、野生動物や家畜が使うような不衛生なものが多く、命を落とす子どもさえいます…
安全な水を持続的に利用していくためには、外からの援助だけでは限界があります。水源を確保するだけでなく、それを現地住民の手で維持・管理していく「仕組み」も必要となります。そこで今回は、独自の水利用システムにより、アフリカの水問題解決を目指すテックカンパニー「Sunda Technology Global」さん(以降、SUNDAさん)を紹介したいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、アフリカの抱える課題を知り、水に苦しむ人たちを救う取り組みに少しでも関心を持って頂けたら嬉しいです。

ウガンダを拠点に、井戸を安全かつ持続的に維持・管理・利用できるプリペイド式料金回収システム「SUNDA」を普及しているスタートアップ企業です。アフリカのすべての人たちが安全な水にアクセスできることを目指して、2020年より活動されています。モバイルマネーを用いた独自の水利用システムを構築し、合理性だけでは解決できなかったアフリカの土着問題にアプローチしている点が特徴です。
2025年4月時点で、ウガンダ全域に約300台のシステムが設置されおり、約10万人の利用者が継続的に安全な水にアクセスしています。2030年にはサブサハラ・アフリカに存在する半数の井戸(約35万基)への導入を見据えています。
参考:株式会社SUNDA Technology Global「ホームページ」

近年では、「リジェネラティブ・カンパニー・アワード 2023」や「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2024ジャパン(関西地区)-大賞」を受賞されています。

2. アフリカを苦しめている水問題
2-1. アフリカ経済の光と影
近年、アフリカ経済は、目覚ましい成長を遂げています。そのGDP成長率は、2024年実績で3.4%、2027年予測でも4.2%と高く、世界平均を上回る見込みです。しかし、それに伴う貧富の格差や地域格差も広がっています。例えば、都市部では水インフラが整備され、各家庭に水道が通っているところも珍しくありませんが、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)の農村部では、村から離れた不衛生な溜池を生活用水として使っている人たちが、実に4億人以上もいます。

参考:アフリカ輸出入銀行「African Trade and Economic Outlook -2025」
2-2. 井戸はあるけど、使えない…
政府や国際援助により、アフリカ農村部にも井戸などの共有水源が設置されています。しかし、そのほとんどは壊れたまま放置されてしまっているため、従来のように、子どもや女性たちが毎日何時間もかけて水汲みを行っているのが現状です。
学校に行く時間や女性が働く機会を犠牲にしてまで手に入れた水… その水も、野生動物や家畜が使うような不衛生なものが多く、決して安全ではありません。これらの地域では、汚れた水が原因の下痢が蔓延しており、年間約30万人、毎日800人以上の乳幼児が命を落としています。加えて、水汲みの道中にも危険が潜んでおり、レイプ被害や野生動物に襲われる人たちもいます。


命を脅かす水と分かっていても、今日を生きるためには飲まなければならないんだ…
参考:UNICEF/WHO報告書「家庭の水と衛生の前進2000~2022年:ジェンダーに焦点を当てて」
2-3. 水問題の根底にあるもの
農村部への水インフラの整備は進められてきましたが、井戸を「設置して終わり」の援助ばかりで、安全な水を継続的に維持・管理できる仕組みは整えられてきませんでした。その結果、多くの井戸が数年で壊れ、放置されてしまっているのです。例えば、ウガンダには約6万基の井戸が存在していますが、そのうち約2万基は稼働を停止しています。これが、過去20年間以上に渡り、アフリカを苦しめている水問題の根底にあります。

井戸の維持・管理は、それを利用する現地住民の役割です。メンテナンスや修理などに掛かる費用も、井戸の利用料金から賄われる必要があります。しかし、料金回収の仕組みが脆弱で、そのための費用が、村の中で十分にプールされていないことが問題となっています。多くの場合、村の代表者が料金回収を行っていますが、ヒトの手に委ねられているため強制力がなく、住民たちから支払いを拒否されることもしばしばあります。また、支払い方法が現金であるために、横領などの不正も起きています。
各家庭によって水の利用量が異なるため、村の住民たちが、月額制の料金回収(いわゆる、サブスク)に不公平感を持っていることも問題の1つです。「そんなに使っていないから払いたくない」「たくさん使っている人がもっと支払うべき」という声が絶えず、結果として支払いを拒否され、料金回収が上手くいっていないのです。また、「同じ村の仲間たちから嫌な顔をされる」ため、回収する側もモチベーションが低い傾向にあります。
過去20年間以上に渡り、外部からの援助が続けられた結果、住民の中には「誰かがやってくれる」という受け身の姿勢が身についてしまっています。自分たちの手で井戸を維持・管理し、将来に渡って安全な水を確保するという主体性を持つことが難しい状況にあります。

アフリカ諸国の行政も認知はしているけど、対策については頭を抱えているんだ…
3.「SUNDA」の取り組み
アフリカのウガンダを拠点に、モバイルマネーを用いたプリペイド式の井戸料金回収システム「SUNDA」を提供しています。水利用者の”公平性”を実現することで、お金の循環が滞りなく回り、回収した利用料金を井戸のメンテナンスや修理に充てることができる仕組みです。また、安全な水の「持続的な利用」を見据えた様々な工夫も為されています。

システムが導入されたコミュニティでは、料金回収率が従来の2倍以上となり、井戸を維持・管理できるだけの十分な費用を蓄えられるようになりました。
➀ 料金回収システム「SUNDA」の普及
SUNDAシステムは、日本の交通系電子マネーに近い仕組みです。水利用者は、SUNDAユニットが設置された井戸にタグを差し込み、タグにチャージした分だけ水を汲むことができます。タグへのチャージは、モバイル上で行われるプリペイド式のため、現金支払いによる不正も起きません。

また、SUNDAユニットは、既存のハンドポンプ式の井戸に後付けできるため、大きな工事も必要なく直ぐに導入することができます。加えて、人が乗っても大丈夫なほどの耐荷重性があり、分解や切断にも強いため、盗難やいたずらを防ぐこともできます。それでいて、専用工具を使って簡単にモジュール交換できる構造です。

意外かもしれないけど、アフリカの農村部でも携帯電話は普及していて、モバイルマネーには使い慣れているんだ。
② 現地住民の雇用創出&主体性の醸成
SUNDAさんの従業員は、ほとんどがウガンダ人で構成されています。現地住民がエンジニアとして開発・製造に携わっているため、SUNDAユニットは、アフリカの厳しい環境や独自の生活スタイルの中で持続的に利用できる仕様になっています。また、現地製造であるため、メンテナンスやスペアパーツ供給などをコストを抑えて、スピーディーに、安定して行うことができます。そして何より、自分たちで考えて判断する経験やそれに伴う自己成長が、“援助慣れ”してしまった住民たちの”主体性”を取り戻すことに繋がります。


ウガンダの平均年齢は15.7歳で、人口の約半数が15歳以下の若者たちです。仕事や役割さえ見つかれば、その若いエネルギーを存分発揮できる土台はあるのです。
③ ロビー活動 & 啓蒙活動
SUNDAユニットの製造や設置作業にはもちろんコストが掛かりますが、アフリカ農村部の住民たちだけで負担できるものではありません。そのため、行政や国際援助機関、NGO団体と共にプロジェクトを立ち上げ、予算を確保する必要があります。アフリカには、地域ごとに独自の慣習やメンツをつぶさないための振る舞い方が存在するため、SUNDAさんはそれらの点に配慮しながら、合意形成に向けたコミュニケーションを行っています。

また、井戸を使う現地住民への啓発も、大事な活動の1つです。県庁や地域のリーダーに話を通し、現地を訪れ、住民たちと会話をし、自分たちの抱える課題を理解してもらう。その上で、どうしたら解決できるのか、どうしたら日々の暮らしにメリットをもたらせるかを丁寧に説明・説得されています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
蛇口をひねれば安全な水が出る、という当たり前の奇跡が、当たり前ではない地域があります。世界には、水汲みという重労働から1日を始める子どもや女性たちが大勢います。学校で学んだり、働いて収入を得たり、家族と共に過ごす時間を犠牲にして…それも、命を落とすかもしれない汚れた水を得るために…遠い国の話に思われるかもしれません。しかし、水に恵まれた日本で暮らす私たちだからこそ、考えなくてはならない、向き合わねばならない問題なのだと、私は思います。
「SUNDA」さんは、安全な水を持続的に利用できるシステムを構築し、ウガンダからアフリカ全域への普及を推し進めています。その先にある「誰もが、安全な水を手に入れられる未来」に目指して。皆様の心に少しでも感じるものがありましたら、無理のない範囲で、自分にできる小さな支援から始めてみてください。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。
