共にできるを、ふやす。デフと聴者の関わり方をアップデートする「サイレントボイス」

「伝えたいことが伝わらない……どうしてわかってくれないの!」
そんな悲しさや憤りを、あなたも経験したことがあるのではないでしょうか。
通信技術が飛躍的に発達し、SNSをはじめとする便利なツールが広く普及した現代でさえ、コミュニケーションに関する悩みは尽きません。言葉は届いているはずなのに、気持ちがうまく伝わらない。そんな“もどかしさ”を、私たちは日常の中で何度も経験しています。
けれど、世の中には、そのもどかしさを日常的に抱えながら生きている人たちがいます。難聴者・ろう者(デフ)と呼ばれる人たちです。日本には聴覚に困難を抱える人たちは約1,430万人いるとされています。また、先天性の難聴児は1,000人に1~2人の割合で生まれています。これは決して少ない人数ではありません。
そこで今回は、聴覚に困難を抱える子どもたちに特化した教育支援サービスを提供している認定NPO「サイレントボイス」さんについて、お話ししたいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、難聴者・ろう者の抱える悩みに気づき、寄り添い、「共にできる」ということについて、少しだけ想いを巡らせて頂けたら嬉しいです。

2016年12月の設立より、聞こえない・聞こえにくいなどの聴覚に困難を抱える子どもたちへの教育支援を行っている認定NPO法人です。
大阪市内で運営している難聴児・ろう児のための学習塾「デフアカデミー」や、全国の子どもたちを繋ぐオンライン教育サービス「デフアカ オンライン」を通じて、デフと聴者の「共にできる」を増やし続けています。子どもたちが「伝わらないこと」で学びや対話を諦めなくていいように、授業から環境づくりまで、「見て、わかる」を意識した工夫が凝らされています。
ミッション1 | 伝わるを、ふやす。
ミッション2 | 社会へ、ふやす。

2. 聴覚に困難を抱える人たち

厚生労働省の調査によると、日本には聴覚・言語障害を持つ方は約38万人いる推計されています。加齢などの要因で、日常的に聞こえにくさを感じている人たちを含めれば、その数は約1,430万人にのぼります。これは日本の総人口の約11.3%にあたります。
また、先天性の難聴児は1,000人に1~2人の割合で生まれています。その遺伝的メカニズムは分かっておらず、両親ともに聴覚障害がないにも家庭に難聴児が生まれるケースも少なくありません。反対に、聴覚障害のある両親から、耳が聞こえる子どもが生まれることもあります。
2-1. 「聞こえにくい」のグラデーション

聴覚障害といっても、聞こえの程度や形態はさまざまです。耳栓をしているように音がこもって聞こる軽度のものから、まったく聞こえない重度のものまで、グラデーションがあるのです。また、先天的に障害を持つ場合もあれば、病気・事故・加齢などによって後天的に発症することもあります。
聴覚障害は、「見えない障害」とも呼ばれます。外見からは気づかれにくく、その人の聞こえ方も、困り事も一人ひとり違う。それ故に、周囲の無理解が生まれやすく、当事者が孤立しやすい側面があるのです。
2-2. コミュニケーションの壁
耳の聞こえない人のコミュニケーション手段として、まず思い浮かべるのは「手話」ではないでしょうか。
しかし、実際に手話を使える人・使っている人は、全体の約18%と意外に少なく、多くの方は、補聴器によるサポートや筆談、読唇、指文字など、それぞれの状況に合わせた多様な方法でコミュニケーションを図っています。

聞こえないこと、聞こえにくいことでコミュニケーションにズレが生じると、それだけで、「考える力がない」と誤解されてしまうこともあります。聞き取れなかった場面では、「わかったふり」をして笑顔でやり過ごすこともあり、成功体験や自己肯定感を得にくいという傾向もあります。たとえ本人に頑張りたいという意欲や能力があっても、成長の機会や活躍できる環境が少ないのが現状です。
2-3. 足りない支援

聴覚障害のある子どもたちは、主に、特別支援学校(ろう学校)や難聴学級、児童発達支援センターなどで教育を受けますが、専門性を持つ教員や支援者の数がまだまだ不足しています。
普通学級に通うケースもありますが、「クラスで1人、自分だけ聞こえない」という状況の中で、孤立を感じている子も少なくありません。
3.「サイレントボイス」の取り組み
聞こえない・聞こえにくい子どもたちは、コミュニケーションの問題によって孤立しがちです。身近に同じ境遇の子どもがいないことで、「世界で自分だけが音のない世界に生きている」と感じてしまう子さえいます。「サイレントボイス」さんは、そんな子どもたちに特化した教育支援サービスを展開し、彼らの「できる」を増やしています。

参考:認定NPO法人サイレントボイス「2024年度活動報告書」
➀ 難聴児・ろう児のための学習塾「デフアカデミー」
「できない」の理由は、決して「聞こえないから」だけではありません。聴覚に困難を抱えた子どもたちは、周りから結果や目的だけを伝えられることが多く、「どう考えればいいのか」というプロセスを学ぶ機会が少ない傾向にあります。
そこで、サイレントボイスさんは、大阪市内にて、難聴児・ろう児に特化した放課後デイサービス「デフアカデミー」を開設・運営しています。聴覚支援学校や難聴学級に通う小・中・高校生を対象に、「見て、わかる」を意識した集団授業やイベントを通じて、子どもたちが「やりたいこと」を叶えていく成長の機会を提供しています。

デフアカデミーのスタッフさんは、子どもたち1人ひとりと向き合い、「伝えたいこと」が相手に伝わるまでとことん付き合います。伝え方が分からないときは、一緒になって考えてくれる。子どもたちがコミュニケーションを諦めなくていい、そんな居場所がここにはあります。
② 全国をつなぐ対話授業「デフアカ オンライン」
地方に住む難聴児・ろう児にとって、「身近に支援環境がない」「同じ境遇の仲間がいない」という課題は切実です。それに応えるために、サイレントボイスさんは、全国の小・中・高校生向けのオンライン教育サービス「デフアカオンライン(旧サークルオー)」も運営しています。
手話はもちろん、写真や映像などの視覚的教材を活用しながら、子どものコミュニケーション方法・学習言語・文化・聴力などの多様性を考慮した授業を提供しています。どの地域に住んでいても自分らしい人生を選べるように、子どもたちの「わかる」「伝わる」「できる」を丁寧に育んでいます。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
私たちは、良くも悪くも「違い」に敏感です。けれど、言語や育った環境に違いがあったとしても、お互いの共通点がたった1つ見つかるだけで、親密さを感じることができます。耳が聞こえる・聞こえないという違いだけで、コミュニケーションを諦めてしまうのは、少し寂しいことかもしれません。
「サイレントボイス」さんは、聴覚に困難を抱える子どもたちが、助けられるだけの存在ではなく、自分らしい人生を歩んでいけるように、教育の力で社会を変えようとしています。今の時代だからこそできるコミュニケーション支援で、デフと聴者の「共にできる」を増やし続けています。
伝えようとする努力、伝わるまで相手に向き合おうとする姿勢。テクノロジーがどれだけ発展しようとも、そのコミュニケーションの本質はきっと変わらないはずです。
自分に優しく、人に優しく。
自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。
それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。

