社会課題をビジネスの力で解決する。“非効率”に挑む「ソーシャルビジネス」の可能性。

皆様の日常の中で、「これ、おかしいな…」と感じた瞬間はありませんか?
捨てられていく食品、海に溢れるプラスチックごみ、紛争と難民、学校に通えない子どもたち、助けを求めているのに届かない支援… 誰もがうっすら気づいているのに、「仕方ない」と流してしまう。どうしてなのか?
その理由の1つは「儲かりにくいから」。ビジネスは、とても正直です。利益にならないと判断されたものには、人の手が届きにくいのです。国や自治体の予算にも限りがあります。その狭間で、本当に助けを必要としている人たちが置き去りにされています。
でも、そんな状況に正面から向き合い、「非効率」と見なされた領域に挑み続ける人たちがいます。今回は、そんな「ソーシャルビジネス」について、お話ししたいと思います。この記事が、皆様にとって、より良き社会への小さな一歩を踏み出すキッカケになれば幸いです。
あらゆるビジネスは、何らかの課題(困りごと)を解決するために存在しています。けれど、多くの場合、その対象は「消費者ニーズがあるもの=儲かりやすいもの」に限られます。十分な利益が見込めなければ、ビジネスとして成り立たないからです。
食品ロス、海洋プラスチックごみ、難民問題、子どもの貧困 ―「儲かりにくい」という理由で後回しにされ、政府や自治体でも十分に対応しきれていない課題は少なくありません。これらは、利益や効率を求めてきた現代社会が生んだ「歪み」とも言えます。

このような社会課題に正面から向き合い、その解決を目的に事業を営んでいるのが「ソーシャルビジネス」です。この新しいビジネスの在り方は、グラミン銀行の創始者ムハマド・ユヌスさんが、2026年にノーベル平和賞を受賞した頃から、注目を集めるようになりました。

2.「ソーシャルビジネス」の3つの特徴
①「非効率」を前提とした、新しいビジネスモデルをつくる

社会課題は、「儲かりにくい」という理由で取り残されてきました。ソーシャルビジネスには、そのよう「非効率」を含めた上で、事業として成立させる新しい仕組みがあります。
もちろん、簡単なことではありません。コスト構造はどうしても高くなりますし、善意だけで買ってもらえる商品・サービスは長続きしません。「社会に良いから」だけでなく、「モノが良いから買いたい」「サービスが良いから使いたい」と思ってもらえる工夫が求められます。
世の中にあるソーシャルビジネスは、社会を良くしたいという純粋な想いだけでなく、その想いを形にする革新的なアイディアが詰まっているのです。
代表例:グラミン銀行(貧しい人々のための銀行)
ムハマド・ユヌスさんが1983年に創設した金融機関であり、担保となる資産を持たない貧困層向けの「無担保・低利少額融資」を行なっています。
従来の銀行がお金を貸していたのは、担保や十分な返済能力がある中間所得者が中心で、お金を本当に必要としている貧困層は相手にしていませんでした。お金を貸しても返ってこない、お金を貸しても何も変わらない ―それが当時の常識だったのです。

それを覆したのが、ユヌスさんとグラミン銀行でした。
土地も資産も持たない貧しい人たち(特に、お母さんたち)に、家族以外の誰かと「5人組」をつくってもらい、そのグループを対象に融資を行ったのです。当初は「リスクが高く、利益がでない」と懸念されていましたが、「借り手のやる気を高める仕組み」によって、その返済率は95%以上と非常に高いものでした。現在では「マイクロクレジット」「マイクロファイナンス」として世界中に広がっています。

ユヌスさんとグラミン銀行の存在は、多くの社会企業家を生み出すキッカケにもなりました。
② 財務指標よりも、社会的インパクトを重視する

従来のビジネスは、売上高や利益などの分かりやすい財務指標が重視されます。一方、社会課題の解決を目的とするソーシャルビジネスでは、「どれだけ社会を良くできたか」という独自の評価軸が用いられます。どれだけの人に好影響を与えられたか、生活の質をどれだけ改善できたか、賛同してくれるパートナーをどれだけ増やせたか。こうした社会的インパクトを測ることで、社会課題の解決にどれだけ近づいているかを評価しています。
参考:JANPIA「休眠預金活用における社会的インパクト評価」
③ 社会性と事業性(持続性)の二兎を追う

社会課題は、一朝一夕では解決できるものではありません。数年、時には数十年という長い時間をかけて、粘り強く取り組んでいく必要があります。そのため、ソーシャルビジネスには「続ける力」が欠かせません。どれだけ志が素晴らしくても、事業として継続できなければ、その支援も止まってしまうからです。
生み出した利益を事業に再投資し、さらに社会的インパクトを広げていく。ソーシャルビジネスは、そのサイクルを回し続けることで、社会を少しずつ良くしています。
3. 支える仕組み、応援する人々
ソーシャルビジネスの多くは、社会課題の解決のために立ち上がったベンチャー企業です。一般的に、ベンチャー企業が10年後も存続している確率は約6%と言われています。まして、社会課題という「儲かりにくい」事業に挑む道のりは、より険しいものになります。
それでも、社会には、そうした挑戦を支える仕組み、応援する人々が存在しています。
➀ ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)
社会課題の解決に取り組むソーシャルベンチャーと、有志のパートナーさんたちがチームを組み、社会変革を目指すコミュニティです。最大2年間の協働を通じて、対象団体の経営基盤の強化や、社会的インパクトの拡大を支援しています。
面白いのは、パートナーさん自身が投資し、経営支援に本気でコミットしている点です。支援する側・支援される側という関係ではなく、同じ目線で伴走しているのが、この団体の特長です。

② 日本民間公益活動連携機構(JANPIA)
経団連によって2018年に設立された一般財団法人です。「休眠預金活用法」に基づき、10年以上動きのない預金(休眠預金)を活用して、行政だけでは対応が難しい社会課題の解決に取り組む民間団体を支援しています。特に、子ども・若者の支援、生活困窮者の支援、地域活性化などを重点分野としています。


日本では、毎年1,200~1,400億円もの休眠預金が発生しています。“眠っているお金”の多い日本だからこその仕組みと言えます。
③ 日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)
日本初の本格的なベンチャー・フィランソロピー基金です。中長期の資金提供とビジネススキルを活用した経営支援を通じて、社会的事業を育成・支援し、その社会的インパクトを拡大することを目的にしています。


フィランソロピーとは、ギリシャ語の愛(Phil)と人類(Anthropy)を合わせた造語であり、慈善活動や社会貢献活動を意味します。
参考:JVPF「ホームページ」
④ 株式会社ボーダレス・ジャパン (ボーダレスグループ)
社会起業家として知られる田口一成さんが率いる「社会企業家のためのプラットフォーム」です。
「1,000人の社会起業家を生み出し、1,000の社会課題を解決する」という壮大なビジョンを掲げ、グループ各社が独自経営を行いながら、資金やノウハウを共有し合う「カンパニオ」の仕組みを採用しています。競争ではなく、“共創”によって社会課題に挑んでいるのが特長です。2026年時点で、世界14ヵ国で50以上のソーシャルビジネスを展開しています。

こうした社会起業家を次々と生み出すビジネスモデルが評価され、2019グッドデザイン賞を受賞されています。

4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「経済」という言葉には、もともと「世を治め、民の苦しみ救う(経世済民)」という意味があります。社会課題の解決に本気で挑むソーシャルビジネスは、その原点を体現する1つの形なのかもしれません。もちろん、関わり方は人それぞれです。社会起業家として自ら事業を立ち上げる、ボランティアやパートナーとして活動を支える、共感するソーシャルビジネスに投資する、NPO団体へ寄付をする、あるいは、1人の消費者としてエシカルな商品・サービスを選ぶ。
「社会を良くしたい」という気持ちは、皆様の中にもきっとあるはずです。大切なのは、無理のない範囲で、できることから始めること。その小さな選択と行動の積み重ねが、未来を少しずつ変えていくのだと思います。
自分に優しく、人に優しく。
自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。
それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。


