赤ちゃんからの贈り物。もう1つの命へとつなぐ希望「さい帯血バンク」

皆様の周りに、出産を予定している大切な方はいらっしゃいますか?
もしかしたら、その赤ちゃんの誕生を心待ちにしているのは、ご家族の方だけではないかもしれません。お母さんと赤ちゃんをつなぐへその緒と胎盤は、お産が終わると捨てられてしまいます。でも実は、その中には、血液を造り出す貴重な細胞がたくさん含まれており、それが血液の病気と闘っている患者さんを救える可能性があるのです。
痛みやリスクもなく、費用も掛からない。赤ちゃんからの贈り物を、そのままもう1つの命へとつなぐ。今回は、そんな命のバトンを支える仕組み「さい帯血バンク」について、お話ししたいと思います。この記事が、皆様にとって、優しい選択肢を知る小さなきっかけになれば嬉しいです。
1.「さい帯血バンク」って、どんな仕組み?

さい帯血とは、へその緒と胎盤に流れる血液のこと。赤ちゃんが生まれた後に、これを提供してもらい、白血病などの血液の病気に苦しむ患者さんの治療に役立てる仕組みが、「さい帯血バンク」です。
採取は出産後に行われるため、お母さんにも赤ちゃんにも痛みや健康上のリスクがなく安全です。費用負担もありません。また、さい帯血は凍結保存できるため、骨髄よりも迅速に患者さんへ移植できるという利点もあります。近年では、再生医療の分野でも研究が進んでおり、その可能性に注目が集まっています。

全国に6つの公的機関があり、厚生労働大臣の許可のもとで、厳格な品質管理が行われています。

2. 血液の病気を治すために
白血病をはじめとする血液疾患は、決して他人事ではありません。子どもから大人まで、誰にでも発症する可能性があります。国立がん研究センターの調査によると、年間約1万5,000人以上が新たに白血病と診断されています。

2-1. なかなか見つからないドナーさん
血液疾患に苦しむ患者さんにとって、「血液を造る工場」を丸ごと入れ替える骨髄・造血幹細胞移植は、病気を根本から治すための数少ない、あるいは唯一の方法です。
けれど、患者さんとドナーさんの「HLA型(白血球の型)」が適合していなければ、移植を成功させることはできません。この型が一致する確率は極めて低く、兄弟姉妹の間であっても4分の1。血の繋がらない他人同士であれば、数百人~数万人に1人という天文学的な確率になります。


少子化が進む日本では、家族の中に適合するドナーが見つからないケースが増えてるんだ。
2-2. 移植までの長い道のり
HLA型が適合するドナーさんが見つかった場合は、「骨髄バンク」を介した移植を受けることができます。けれど、必ずしも患者さん全員が、移植まで辿りつけるとは限りません。そこには、「時間」の壁が立ちはだかります。

骨髄移植の場合、ドナーさんとのさまざまな調整が必要になります。健康状態のチェックやご家族の同意、仕事の都合など。最終的な提供・移植に至るまで、通常、数ヶ月の準備期間を要します。しかし、血液疾患は進行がとても早く、ある日突然、病状が悪化することもあります。
一刻の猶予もない患者さんにとって、数カ月という時間は、あまりにも長いのです。
3.「さい帯血バンク」が命をつなぐ
適合するドナーさんがなかなか見つからない…見つかっても移植までに時間がかかる… 移植による治療を難しくしている「型」と「時間」の壁。これらを乗り越え、患者さんに生きる希望を届ける方法の1つが「さい帯血移植」であり、それを支える仕組みが「さい帯血バンク」です。

参考:日本赤十字社「骨髄バンク・さい帯血バンク ハンドブック」
➀ 採取は、お産の後 —お母さんと赤ちゃんの負担ゼロ
さい帯血の採取は、赤ちゃんが無事に生まれた後、切り離されたへその緒と胎盤から行われます。そのため、お母さんにも赤ちゃんにも、健康上のリスクは一切ありません。出産時の状況によって採取できない場合でも、安全なお産が優先されるので安心です。
必要なのは、事前の同意書にサインすること。それだけで、小さな命の誕生を、もう1つの命へとつなぐことができるのです。


さい帯血の採取は、公的バンクと提携している全国の産科病院で行うことができます。
② 移植はすぐに、高い確率で
さい帯血バンクは提供者側だけでなく、患者さんにとっても大きな利点があります。それは、移植を「すぐに、高い確率で」受けられること。
骨髄移植ではドナー探しから採取まで数ヶ月を要しますが、さい帯血は事前検査と凍結保存できるため、数週間での提供・移植が可能です。また、HLA型(白血球の型)が完全に一致しなくても移植できる順応性もあります。
患者さんの病状が一刻を争うとき、このスピードと順応性が、命をつなぐ大きな希望となるのです。

2024年度に行われた非血縁者間の造血幹細胞移植2,338件のうち1,313件が「さい帯血移植」によるものでした。近年では、骨髄移植よりも件数が多くなっており、血液の病気を治す「主役」になりつつあります。

4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
赤ちゃんの誕生は、家族にとって奇跡のような瞬間です。そのかけがえない命の誕生には、もう1つの命を救う力がそっと宿っています。痛みも、リスクも、費用負担も、何もありません。必要なのは、お母さんの「提供してみようかな」という小さな気持ちだけ。
もしも皆様の周りに、出産を予定している大切な方がいらっしゃるなら、ぜひ一度、さい帯血の提供について話し合ってみてください。難しく考えることはありません。「こんな仕組みがあるらしいよ」と、この記事をそっと届けるだけでも十分です。その優しさが、見知らぬ誰かを救い、救われた人がまた他の誰かに優しさをつないでいく。その思いやりのバトンが、やがて赤ちゃんが生きていくこれからの社会を、少しずつ温かいものにしてくれるはずです。
自分に優しく、人に優しく。
自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。
それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。

