動物たちにも思いやりを。「アニマルライツセンター」は、言葉を持たない動物たちの代わりに声を上げ、そのメッセージを伝えています。
皆様、こんにちは。
アニマルウェルフェア(動物福祉)という言葉を聞いたことがありますか?これは、家畜を含む、人間が管理する動物に対しての「向き合い方」を示したものです。日本ではあまり認知されていませんが、世界では重要視されており、183の国と地域が加盟する国際獣疫事務局(WOAH)によって世界基準が設けられています。先行している欧米諸国では、アニマルウェルフェアに則った法規制をかけている国や、それ以上に厳しい基準を設けている企業もあるほどです。私たち人間のように言葉は持たなくとも、動物たちもまた、喜びや苦しみ、痛みを感じることのできる感受性ある生きものです。たとえ、食べるためであっても、私たちの血肉になってくれる動物たちに、せめても感謝と敬意を示すべきであると私も思います。
そこで今回は、1987年の発足から長年活動を続けている認定NPO法人「アニマルライツセンター」さんについてお話ししたいと思います。この記事が、アニマルウェルフェアを知るキカッケに、皆様のこれからの消費行動を考える一助になってくれたら嬉しいです。
アニマルライツセンターさんは、動物たちへの非倫理的な扱いをなくし、動物たちが動物らしくいられる社会、人と動物たちが穏やかに共存できる社会を目指すNPO法人です。1987年から活動を続けており、工業生産的な家畜飼育や搾取、虐待、遺棄といった動物たちの置かれている悲惨な実態を調査し、その改善に向けた啓発や提言、ロビー活動などを行っています。また、Webマガジン「Hachidory」では、動物利用の削減に繋がるエシカルで持続可能性の高いライフスタイルを発信・提案しています。
2. アニマルウェアフェア(動物福祉)の考え方
2-1. 定義
日本も加盟している国際獣疫事務局(WOAH)は、アニマルウェルフェアを以下のように定義しています。
アニマルウェルフェアとは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態をいう。
出典:国際獣疫事務局(WOAH)「Animal Welfare」
ペットや家畜、実験動物など、人間が関与している動物たちとの関係性と、私たちヒトの倫理的責任を問うものです。その基本原則として、次の「5つの自由」が提唱されています。
=5つの自由=
- 「飢え、渇きおよび栄養不良」からの自由
- 「恐怖および苦悩」からの自由
- 「身体的および熱の不快」からの自由
- 「苦痛、傷害および疾病」からの自由
- 「正常な行動」ができる自由
なお、アニマルウェルフェアは、動物を利用することを否定するものではありません。ポイントは、「動物たちが生きている間は、動物らしい本来の姿・状態にすべく、健康や生活の質(QOL)を高めるべき」ということ。この考え方の発祥は、1960年代のイギリス。家畜福祉の活動家ルース・ハリソンさんが、「アニマル・マシーン」という本の中で、工業生産的な家畜飼育の虐待性を痛烈に批判したことがキカッケとなり、イギリスからヨーロッパへ、ヨーロッパから世界へと広がっていきました。現在では、グローバルスタンダードになっており、農林水産省もアニマルウェルフェアを前提とした飼養管理の普及を進めています。
2-2. アニマルウェルフェアの「三方良し」
アニマルウェルフェアの改善は、動物はもちろん、その食肉を頂いている私たち消費者、そして、生産者のためにもなります。
「動物良し」「消費者良し」
身体と心は密接に繋がっています。身体の調子が悪くなれば、心も弱くなりますし、逆にストレス状態が続けば、身体にも何らかの不調が出てきます。これは、人だけでなく、動物も同じです。現代の「質より量」が優先される工場畜産では、多くの動物たちが過酷な環境で飼育されており、心身共に病んだ状態にあります。そんな「病んだ食肉」を頂いていたら、私たちの心身にも何らかの悪影響が生じてもおかしくはありません。そのような状況は、動物と人、双方にとって決して健全とは言えません。だからこそ、アニマルウェルフェアが重要になるのです。倫理的な理由だけでなく、動物たちを快適な環境下で飼養して、ストレスや疾病を減らすことにはきちんとした意味があるのです。
「生産者良し」
アニマルウェルフェアの改善には、もちろんコストが掛かります。しかし、生産者側にもきちんとしたメリットはあります。動物たちの心身が健康であれば、抗生物質や薬剤、ワクチンなどの使用が減るため、医療コストを低く抑えられます。健康的に育てば、成長促進剤(ホルモン剤)に頼らずとも大きく育ちます。飼料効率も向上します。また、健康的な食事やエシカル消費が広がるこれからの社会では、アニマルウェルフェアに配慮した畜産は、それだけで大きな付加価値を生みます。
動物たちに優しい社会は、回りまわって、人にとっても優しい社会になるんだね。
2-3. アニマルウェルフェア後進国、日本
日本におけるアニマルウェルフェアの認知度は25%とまだまだ低く、その言葉すら知らない人がほとんどです。実際、日本人は、食品の品質にはこだわる一方、その生産プロセスにはあまり関心が向いていない傾向にあります。農林水産省はアニマルウェルフェアへの指針を示していますが、そこに法的な拘束力はありません。そのため、日本では、動物たちをモノのように扱う「工場畜産」が、今も当然のように行われています。生産者がアニマルウェルフェアの改善に取り組むのはもちろん、私たち消費者も動物たちの置かれている現状を知り、それに配慮して行動する必要があります。
3. アニマルライツセンターの取り組み
➀ 実態調査
何事においても、現状を正しく把握することは重要です。アニマルライツセンターさんは、動物たちが今どんな状況に置かれ、どんな苦しみに直面しているのかを調査・モニターし、次のアクションへと繋げています。その一環として、一般の人たちを対象にした意識調査や、政府や企業の動向から消費者の行動分析も行っています。
これらの調査結果は複数のWebサイトやYouTubeなどで公開されています。
中には、目を背けたくなるようなものもあるけれど、まずは現実を知るところから始めよう。
=バタリーケージで生産される鶏卵=
日本の鶏卵の90%以上が、バタリーケージと呼ばれる金網の中で生産されています。生産性だけ見れば、非常に優れた飼育方法です。糞は全て下に落ちるため、衛生的で病気のリスクは少なくなります。行動が制限されるため、飼料も少なくて済みます。結果として、産卵効率が上がります。しかし、ケージの中には、巣も砂場も止まり木も何もありません。たった一本の藁もありません。
出典:バタリーケージ飼育-採卵鶏の一生
鶏には、翼を羽ばたかせたり、毛づくろいをしたり、砂浴びをして羽をきれいにする習性があります。一日に何度も地面をつつき採食・探索する動物です。隠れたいという欲求もありますし、夜は止まり木がないと安心して眠ることができません。しかし、このバタリーケージの中では、それらの欲求を叶えることはできません。質の良い卵を産めなくなり、屠殺されるまで一生出ることはできません。EUでは、既に全面的に禁止されています。
=妊娠ストールに囚われる母豚=
母豚は、その一生のほとんどの時間を「妊娠ストール」と呼ばれる檻に閉じ込められて過ごします。人間たちが管理しやすいという理由で用いられていますが、そこに豚たちへの配慮はありません。一頭一頭が別々に閉じ込められ、全ての自由を奪われます。方向転換すらできません。孤独のまま、仲間と触れ合うこともできません。豚は本来、犬と同等以上に好奇心旺盛で、知的かつ社交性のある動物です。彼女たちに相当のストレスが掛かっていることは、容易に想像できます。
出典:母豚の一生-振り返ることもできない檻「妊娠ストール」に収容され続ける
この妊娠ストールは、欧米、オーストラリア、ニュージーランド、カナダで使用禁止、または段階的廃止の段階にあります。この流れは、中国やタイなどのアジア諸国にも広がっています。しかし、日本での使用率は90%を越えているのが現状です。
=牛乳の裏側=
日本の畜産では、とにかく自由を奪います。日本の約70%の酪農場では、通常の飼育方法として、牛を「つなぎ飼い」が行われています。牛たちは同じ場所から移動することができず、食事をするのも、糞をするのも、寝るのも、すべて同じ場所です。つながれたままで出産する乳牛も珍しくはありません。
心身共に健康でいるためには、最低限の運動が必要です。自然に近い環境で過ごしていれば、牛は自分で自分の体の清潔さを保つこともできます。しかし、つなぎ飼いの牛たちには、その機会が与えられていません。そのため、跛行(はこう)や関節炎、潰瘍、膿瘍などの深刻な病気になることが多いのです。そんな不健康な牛たちから絞り取った牛乳を私たちは飲んでいるのです。
② 気づきを与える
「臭いものに蓋をする」という文化があるように、日本における動物たちの問題は、社会の見えないところに隠されています。アニマルライツセンターさんは、街頭キャンペーンや講演会、勉強会、パネル展、メディアなどを通して、国会や企業、一般消費者など、できるだけ多くの人たちに向けて、動物たちの現状を伝えています。調査結果に基づいて作成したテキストや資料などは無料で配布し、誰もが情報にリーチできるようにしています。また、より効果的かつ長期的に動物を救えるように、次世代を担う人材育成にも力を入れています。
③ 消費者の声を届ける
まずは、私たち1人ひとりの意識が変わることが大切です。しかし、より効果的に動物たちの苦しみや犠牲を減らしていくためには、企業の取り組みが欠かせません。アニマルライツセンターさんは、私たち消費者の声を味方に、多くの企業と対話しています。ケージフリーやストールフリー、ベターチキンなどのアニマルウェルフェアに配慮した政策への転換、アニマルフリーの商品開発などを提案・交渉しています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
私たち人間は、多くの動物たちを傷つけながら、多くの命を頂きながら、これまでを生きてきました。しかし、私たちは、動物を傷つけない理性や優しさを併せ持っています。そして、現代には、動物を犠牲にしなくても楽しく生きられる方法がたくさんあります。牛乳ではなく豆乳を飲む、食肉を減らす、ケージフリーで生産された平飼いの卵を選ぶ、自然放牧されたグラスフェッドビーフやグラスフェッドバターを買う、などなど。ヴィーガンにならなくても、アニマルウェルフェアに配慮したエシカルな選択をすることが、今の私たちにはできるのです。週に1回でも、月に1回でも、年に1回でも、思いやりのある小さな行動に移していくことが大切なのだと思います。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。