犬の“殺処分ゼロ“を目指して。ワンコとヒトの幸せを結ぶ保護・譲渡活動「ピースワンコ」

皆様、こんにちは。
社会がどれだけ発展しても、私たちの暮らしの側には、いつも動物たちがいます。そっと寄り添い、ぬくもりと癒しを与えてくれる彼らを、「家族の一員」として迎え入れる家庭も珍しくありません。でも、その陰に、目を背けたくなるような悲惨な現実があることをご存知でしょうか?
日本のペットビジネスは1兆8,629億円規模にまで成長し、今や一大産業と化しています。そこで”商品”として売られている動物たちの多くは、見た目やトレンドが優先され、遺伝子疾患を無視した交配や人気種の過剰繁殖などが行われています。そして、大量生産された中には、”売れ残り”として処分されている子たちもたくさんいます。人間の身勝手によって生み出され、人間の都合によって捨てられる命がある…“命の重み”は、人も動物も同じはずなのに。このような社会構造が、今も日本に残っているのです。
そこで今回は、地道な保護・譲渡活動を通して、日本の犬の“殺処分ゼロ“を目指す継続的プロジェクト「ピースワンコ」についてお話ししたいと思います。動物と暮らしたことのある方も、そうでない方も、人と動物が幸せに生きられる共生社会の実現を願い、そのための取り組みに少しでも関心を持って頂けたら嬉しいです。

広島県神石高原町のふるさと納税でも寄付できるよ。

飼い主のいない犬たちを保護し、愛情を持って育てながら、新しい家族を見つける継続的な取り組みです。NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」さんが運営母体となり、動物福祉(アニマル・ウェルフェア)の理念のもと、行政機関や企業、地域社会と連携して“殺処分ゼロ”の実現を目指しています。
かわいそうな命をただ救うのではなく、医療ケアや人馴れトレーニングを行う、人と犬が絆を深められる場を整える、飼い方や動物福祉の考え方を広める、“終生家族“となれる里親さんを探す、など。ワンコたちが幸せに犬生を全うできるように様々なサポートを提供しているのが特徴です。
=ミッション=
日本の犬の“殺処分ゼロ“
参考:NPO法人ピースウィンズ・ジャパン|ピースワンコ「ホームページ」

2011年の広島県神石高原町から始まった地道な活動が実り、2016年には広島県内での犬の“殺処分ゼロ“を達成。その偉業は今日まで続いています。

2. 家族として迎えられる命、モノとして処分される命

2-1. ペットが与えてくれる安らぎ
私たちに癒しと安らぎを与えてくれる存在として、現代では「ペット=家族の一員」と捉える風潮があります。実際、ペットと暮らすと、コミュニケーション機会が増えたり、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌を促したり、ストレスが軽減するなど、心身の健康にプラスの影響をもたらしてくれます。動物との触れ合いによる癒しの効果は、動物介在活動/療法(いわゆる、アニマルセラピー)として活用されているほどです。

参考:公益社団法人 アニマル・ドネーション「犬や猫の飼養に関する全国調査 集計まとめ」
参考:公益社団法人 日本動物病院協会「アニマルセラピー 人と動物のふれあい活動」
2-2. 日本のペット市場
一般社団法人ペットフード協会の実態調査によれば、2024年における犬・猫の飼育頭数は1,595万頭に昇りました。これは、同年における15歳未満の子どもの人口(1,410万人)を上回る数です。特に、コロナ禍以降は、「癒し」や「孤独の解消」を求めて、ペットを家族に迎える人たちが増えました。日本のペットビジネスは1兆8,629億円規模にまで成長し、今や一大産業と化しています。
参考:一般社団法人ペットフード協会「令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査」
2-3. ペットショップの裏側で
ペットを迎える方法としては、現代でもペットショップが主流であり、犬に関しては54.2%を占めています。しかし、忘れてはならないことがあります。それは、ペットショップはあくまでもビジネスであり、売られている多くの犬猫は”商品”として扱われているという事実です。顧客に買ってもらえるように、見た目”やトレンドが優先され、遺伝子疾患を無視した交配や人気種の過剰繁殖などが行われています。繁殖施設から流通される際には、トラックで長距離輸送されることもあり、輸送中のストレスや体調不良、感染症も後を絶ちません。ショーケースに可愛い商品が並ぶまでに、私たちの見えないところで多くの命がリスクに晒されているのです。

そして、最も大きな問題は、“売れ残る命“があるということ。可愛さのピークを迎える生後3〜4ヵ月間を過ぎると「商品価値が下がる」とされ、多くは値引き販売されます。それでも売れ残った子たちはどうなるのでしょうか?ペットオークションで格安販売されたり、繁殖用として再利用されたり、最悪の場合「殺処分」されてしまいます。いずれにしても、”売れ残り”の行き着く先は悲惨なものです。

ペットショップで簡単に手に入ることから、安易な気持ちで購入する人たちも結構な数いるんだ。そのせいで、都合が悪くなったから捨てられる子たちも多い…
2-4. 捨てられた子たちの末路

動物愛護管理法の改正や動物福祉(アニマルウェルフェア)の広がり、動物保護団体の懸命な努力もあり、犬猫の殺処分数は年々減少傾向にあります。しかし、令和5年度だけでも、44,576頭がセンターに引き取られ、9,017頭が殺処分されています。犬の殺処分には、「ドリームボックス」と呼ばれるガス室が使われます。それは、二酸化炭素を使った窒息死であり、安楽死とはほど遠いもの…もがき苦しみながら最期を迎える残酷なものなのです。呼吸の浅い子犬や子猫の場合は、ガスで死にきれず、生きたまま焼却されることもあります。そして、焼却された遺灰は産業廃棄物として処分されています。
参考:公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「犬猫の引取り数と殺処分数」
3.「ピースワンコ」の取り組み
2012年のプロジェクト始動からこれまでに8,600頭以上の犬を保護し、5,100頭以上のワンコを新しい家族のもとに届けられています。2025年現在では、全国11カ所の施設を展開し、約8万人のサポーターに支えられています。そして、全国での”殺処分ゼロ”を目指し、殺処分頭数の過半数を占めている四国・九州地方にも活動の輪を広げています。

参考:NPO法人ピースウィンズ・ジャパン「年次報告書2024」

2025年1月からは、姉妹プロジェクト「ピースニャンコ」も始動しました。
➀ ワンコの保護と心身のケア
ピースワンコでは、引き取り手のない犬たちを保護し、全ての1頭1頭に名前をつけ、カルテを作成し、健康診断やワクチン接種、フィラリア治療などの医療ケアを施しています。保護対象は、野犬や虐待されていた犬、殺処分予定であった犬が多く、とても臆病だったり、攻撃的な子たちもいます。そんなワンコたちでも新しい家族と出会えるよう、専門スタッフが時間をかけて信頼関係を築き、人に慣れてもらうためのトレーニングやしつけを行っています。
広大な敷地を持つ神石高原シェルターには、ワンコたちが運動不足やストレスを溜め込まないように、5,300㎡の庭付き犬舎施設や10,000m以上のドッグランなど、駆け回るのに十分な設備を用意しています。熱中症対策として、全犬舎にはエアコンも完備されています。また、ワンコたちの健康状態を安全に管理できる診療所や医療体制も整えてられています。

中には、障害や持病を持った犬、飼育放棄された老犬もいる。でも、そんなワンコたちでも最期まで犬生を全うできるように大切にお世話されているだ。

ワンコたちのケアのためには、一頭あたり年間 約36万円の費用が掛かります。しかし、現時点で、保護犬に関する公的な助成金や補助金はまったくありません。これらの費用は、取り組みに賛同してくださる多くの方の寄付と支援によって支えられています。
② “命のバトン“を渡す譲渡活動
拠点を置く広島だけでなく、ピースワンコの譲渡センターは全国にあり、ワンコたちと新しい家族をつなぐ役目を果たしています。ワンコたちとの触れ合いや出会いをもっと身近なものにするために、WEBサイトやSNSを使って、譲渡会やお散歩体験会などのイベントも積極的に行われています。犬たちの性格や過去の背景などのプロフィールが丁寧に記され、写真や動画を通じて個性が伝わるような工夫もなされています。

その一方で、一時の感情で、ワンコを迎えることがないよう慎重な譲渡プロセスが組まれており、里親希望者の方には「飼養環境の確認」や「お試し飼育」などをお願いしています。また、「譲渡後のアフターフォロー」も徹底しており、里親さんとの定期的な連絡やサポート体制も整えています。

病犬・障害犬・老犬など、継続的な医療ケアが必要なワンコを迎えてくださった里親さんには、「ファミリーサポート制度」を設けており、譲渡後も発生する費用の一部を負担しています。
③ “働くワンコ“の育成
ピースワンコの活動の1つとして、保護犬から「働く犬」を育てる取り組みがあります。人命救助に活躍する災害救助犬や、お年寄りや子どもを楽しませるセラピー犬などの育成です。運営母体である「ピースウィンズ・ジャパン」さんの災害支援事業の現場に出動し、実際に人命救助の一翼を担った子もいます。
また、画期的な取り組みとして、2024年12月には、法務省-広島矯正局と連携した「刑務所での保護犬育成プログラム」を開始。保護犬の人馴れを促進させると共に、ワンコたちとの触れ合いによって、受刑者の心身の健康と社会適応能力の向上を期待しています。ワンコとヒトが共に成長し、社会復帰に目指すとても有用な機会になり得ます。

愛された経験がワンコの心を救い、愛する経験を通してヒトの心も救われるんだ。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
日本の犬の“殺処分ゼロ”。それを一瞬で叶える魔法のような方法はありません。飼い主のいない野犬や殺処分対象となった犬たちを引き取り、シェルターで保護し、医療ケアや人馴れトレーニングを施し、十分な愛情を注いで新しい家族につなげる。こうした地道な取り組みを1つ1つ積み重ねていくほかないのです。では、私たちにできることは何でしょうか?それは、「命」に対する向き合い方を変えること。ショーケースに並んだかわいい動物たちに見惚れるだけでなく、彼らの気持ちを、彼らの痛みを想像しなくてはなりません。そして、もしも彼らを「家族の一員」として迎え入れたいと思ったなら、その命を「引き受ける」という優しい覚悟を持たなくてはなりません。その決断は、きっと簡単なことではないでしょう。いえ、簡単なことであってはならないのです。
今日も、ピースワンコの施設では、人間の都合によって捨てられたワンコたちが「生き直す」ために懸命に頑張っています。1頭でも多くの命を救うために、力を尽くしている人たちがいます。見捨てなかった命が、再び輝く。そんな力強く温かい物語が、日本各地で静かに紡がれていることを、どうか心に留めておいてください。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。
