たよってうれしい、たよられてうれしい。「おてらおやつクラブ」は、他者への思いやりを実践し、貧困の解決を目指しています。
皆様、こんにちは。
日本全国には約7万7000もの「お寺」があり、実はコンビニよりも多く存在しています。その存在は私たちにとって決して小さくはありません。お寺は葬儀・法要などの供養のほか、かつては、寺子屋として教育の役目を担っていたり、戸籍管理の役割を果たしていたり、相撲や芝居小屋などの娯楽場のような側面を持っていたりと、地域社会との密接な関わりがありました。しかし、近年は、少子高齢化や都市圏への人口集中、家族形態の変化、人間関係の希薄化、そして、葬儀の簡略化などの社会的背景により、お寺と地域社会との距離が生れてしまっています。
そんな中、現在、お寺の在り方を再定義し、新しい価値を生み出す様々な取り組みが行われています。今回は、その1つである「おてらおやつクラブ」についてお話ししたいと思います。お寺が地域社会で行ってきた営みを現代的な仕組みにデザインし直し、「貧困」という社会課題の解決を目指す画期的な活動です。この記事を読んでくださった皆様が、少しでも関心を持って頂けたら幸いです。
お寺に届けられる様々なお供え物を、仏様からの「おさがり」として頂戴し、支援団体さんの協力のもと、困りごとを抱えるひとり親のご家庭に「おすそわけ」している活動です。賛同して頂ける全国のお寺と、子どもやひとり親家庭などを支援している各地域の団体さんとを繋げ、お菓子や果物、食品、日用品を届けています。また、お寺と支援団体の方だけでなく、地域住民の方々とも協力し、仏教の説く「慈悲の実践」を通じて貧困の解決を目指しています。
- お寺が「孤立解消の拠点」になってほしい
- お寺の「可能性」を提示したい
- お寺は「どんな人も見捨てない場所」
2014年、奈良のお寺から始まったこの活動は、2018年度のグッドデザイン大賞にも受賞しました。
2. ひとり親家庭の抱える課題 -子どもの貧困、貧困の連鎖
悲しい現実として、世界には貧困が存在しています。その原因は、戦争や紛争、災害、病気、不安定な情勢、資源不足など様々です。貧困は、発展途上国や後進国だけの問題に思われるかもしれませんが、先進国である日本にも「隠れた貧困」があります。「相対的貧困」と呼ばれるそれは、所得(等価可処分所得)の中央値の半分に満たない経済状況のことを指し、厚生労働省の2022年度調査報告によれば、日本の「ひとり親家庭」の44.5%(約60万世帯)が、この相対的貧困に陥っています。残念ながら、これは先進国の中では最悪のレベルです。
ひとり親は働き方が制限されるため、生活が困窮しやすい傾向にあります。ただでさえ大変な子育てを一人で行うため、必然的に短時間労働にならざるを得ません。また、子どもが病気になったときにフォローしてくれる家族がいなければ、仕事を休まなくてはなりません。そういった制約から正規雇用に就けなかったり、そもそも雇用してもらえないというケースも多々あります。加えて、ひとり親世帯の半数以上が、離婚後の養育費を受け取っていないという現状が拍車を掛けています。
そして、貧困は親から子へ、子から孫へと連鎖します。貧困家庭では、子どもの教育や体験機会に十分なお金を掛けることができず、大人になってからの就業機会や収入面などで不利になるためです。
出典:日本財団ジャーナル「なぜ世界から貧困(ひんこん)はなくならない?」
ひとり親家庭の貧困、それに連なる子どもの貧困は、当事者たちだけの問題ではありません。少子化の進む日本でこの問題を放置していると、国や地域社会、企業を支える人材の損失に繋がります。また、所得格差や困窮世帯を支えるために、私たちの税金や社会保険料の負担も増えていくことでしょう。周囲から見えにくく、孤立してしまっているひとり親は、誰かに「助けて」と言えない状況にあります。貧困から脱するためのキッカケすらつかめない状況にあります。だからこそ、今、私たち1人ひとりがこの問題に意識を向け、社会全体で貧困の連鎖を断ち切り、子どもたちの未来を開いていく必要があります。
参考:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
2013年5月にニュースになった「大阪市母子餓死事件」が、「おてらおやつクラブ」の活動を始めるキッカケになったそうです。
3.「おてらおやつクラブ」の取り組み
➀ おすそわけ事業 -お寺の「ある」と社会の「ない」を繋げる
お寺には、仏様や先祖へのお供えとして、たくさんの食べ物があります。お寺で修行生活を送っている方々は、仏様へのお布施やお供え物を「おさがり」として頂いています。しかし、時には頂き過ぎたお供え物を無駄にしないために、頭を悩ませることもあります。一方で、豊かな国であるはずの日本でも、「子どもの貧困」が深刻化しており、その日の食べ物に困る子どもたちが増えています。このようなお寺の「ある」と、社会の「ない」を無理なく繋げ、どちらの課題も解決しようという活動こそが、「おてらおやつクラブ」なのです。
仏教は、苦しみから逃れるための教えです。その教えを説く者は、人々が感じている苦しみを知らなければなりません。苦しみを知り、苦しみから逃れるための教えを、他者への思いやりを実践する。「おてらおやつクラブ」はまさに、その実践の場でもあるのです。
見守ってくれている人がいる、自分はひとりではないと感じられる、困ったときに助けを求められる人や場がある、そう思えることは、たとえ経済的に苦しい中にあっても、また頑張ろうという励みになります。「おすそわけ」は、物理的な支援以上に、人々の心の支えとなっているのです。
② 啓発事業 -貧困問題を伝える
全ての関心は、知ることから始まります。「おてらおやつクラブ」では、支援と併行して、ひとり親家庭の現状や子どもの貧困といった社会課題を広く知ってもらうための啓発活動も行っています。自社発行のフリーマガジン『てばなす』や講演、セミナー、イベント、メディア取材などを通じて、多くの方々にこの課題を伝えています。
③ 居場所事業 -「声」を聴いて、地域へつなぐ
現在は奈良県田原本町にある安養寺(おてらおやつクラブ事務局)を開き、子どもや若者たちを孤立させないための活動も行っています。子どもたちと近い世代の学生ボランティアさんが中心となり、先生や親とのタテの関係や、友だちとのヨコの関係とは異なる「ナナメの関係」を築き、安心して過ごせる場づくりをしています。お兄さんやお姉さんのような距離感で、家庭や学校では得られない価値観に触れることで、子どもたちの考え方や将来の選択肢を広げる機会にもなっています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
先祖の供養のために生まれた「お寺」は、他者への思いやりを表現する場として、かつては、地域社会と密接に繋がっていました。しかし、様々な社会的背景により、今、そのあり方が変わろうとしています。「おてらおやつクラブ」のように、社会と新しい関係性を築いている活動も存在しています。近年は、外国人観光客の方々が、「日本らしさ」を求めて、神社仏閣に足を運ぶことが多くなっています。私たち日本人も、「お寺」という存在にもう少し意識・関心を向けるべきなのかもしれません。それが、世界に誇れる日本人らしさ、他者を思いやる大切さを思い出すキッカケになるかもしれません。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。