いまこそ消費の常識を変えるとき!「坂ノ途中」と共に、100年先も続く、農業を。
皆様、こんにちは。
普段のお食事の際に、「いただきます」という言葉を口にしていますか?たとえ言葉にしていなくとも、きっと、心の中では唱えていることでしょう。私は、この言葉が大好きです。なぜなら、私たちの血肉になってくれる食材の「命」そのものに向けた敬意と感謝が込められた言葉だからです。そして、この想いは、食材を獲ってくれた人、育てくれた人、食事を作ってくれた人にも向けられています。今回は、株式会社「坂ノ途中」さんの取り組みを通して、農産物の作り手の方々に想いを馳せながら、これからの農業について考えてみたいと思います。この記事を読んだ皆様が、「100年先も続く、農業」に少しでも興味・関心を持って頂ければ幸いです。
2009年創業時から「環境負荷の小さい農業を広げる」ことを目指し、農業の新しい流通の仕組みづくりに取り組んでいる企業さんです。その活動は多岐に渡り、農産物の流通販売から、環境負荷の低減に挑む新規就農者さんの支援、はたまた「海ノ向こう」での有機農業の普及など、様々なプロジェクトを実施されています。
<ビジョン> 「100年先も、続く農業を。」
環境負荷の小さい農業?農業って、そもそも環境に優しいものじゃないの?
本来はそうあるべきなのだけれど、現代農業は少し事情が違うんだ。
2. 現代農業の抱える課題 -農業由来の環境破壊
農業は本来、とても長い時間を掛けて行われるものです。しかし、現代の慣行農業では、短期的な生産性や効率性、色や形などの見栄えが重視され続けた結果、農薬や化学肥料に頼らざるを得なくなっています。農薬は、農産物を害虫や病気から守ってくれますが、土壌の豊かさを育んでくれる微生物たちにも良くない影響を与えます。使い続ければ、生物多様性は失われ、栄養分の抜けた痩せた土地になっていきます。その足りなくなった栄養分を補うために、今度は即効性の高い化学肥料が使われます。しかし、農産物も生きものです。お薬ばかりに頼っていたら、生物本来の適応力や生命力が弱っていきます。そうなれば、また農薬や肥料が必要になります… 現代農業では、こうした悪循環が繰り返されているのです。
加えて、農薬や化学肥料の製造には、大量の化石燃料が消費されています。海外では農地開拓のために、森林がかつてないスピードで減少しています。意外に思われるかもしれませんが、農業が広がるほど、地球温暖化の原因になる二酸化炭素が増加してしまう…これが、現代農業の姿です。
勘違いして欲しくないのですが、農家さんも好きで農薬や化学肥料を使っているわけではないのです。
そういうニーズを求めてしまった、ぼくたち消費者にも責任があるのかもしれないね。
3. 有機農業への機運の高まり
現代農業の悪循環を止め、未来に持続的な農業を残す方法は、有機農業を始めとする「環境負荷の小さい農業を広げる」ことです。嬉しいことに、近年は、有機農業に意欲を示す新規就農者さんが増えています。健康志向の高まりから、有機農産物を求める消費者ニーズも増加傾向にあります。2021年には、農林水産省から「みどりの食料システム戦略」が発表され、2040年までに主要品目について次世代有機農業技術を確立し、2050年までに有機農業の耕地面積を全体の25%(100万ha)に拡大する目標が掲げられました。いま日本全体で、有機農業への機運が高まっています。
この調子なら農業の未来も明るいね!
でもね。有機農業を続けることは、私たちが思っている以上に険しい道のりなんだ。
険しい道のり① 収穫量が不安定…
農業というのは、そもそも難しいお仕事です。有機農業、慣行農業に関わらず、新規就農者さんの75%は、農業収入だけで食べていくことができていません。技術やノウハウがないからではありません。就農して直ぐは、借りられる農地が狭かったり、日当たりが悪かったり、水はけが悪いなど、条件が良くないことがほとんど…結果として、収穫できる農産物は少量、または不安定になります。
それが有機農業ともなれば尚更です。有機農業は、外部資材に頼らず、土地の特徴や気候などの環境に合わせた栽培を行うため、どうしても収穫量や品質に大きなブレが出てしまうのです。
険しい道のり② 販売経路が限られる…
現代の流通システムは、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提に構築されています。農業においても、それは変わりありません。安定供給を当たり前としたこの仕組みは、収穫量が少なく不安定な有機農業とは相性が悪く、質の良い農産物ができたとしても、取り扱ってくれないケースが多いのです。農家さんが自ら販路を開拓する道もありますが、ただでさえ手間とコストの掛かる有機農業では、そこに割けるリソースも限られます。
有機農産物を見かける機会が少ないのは、こういう事情もあるんだね。
険しい道のり③ 有機JAS認証なくして、「有機」「オーガニック」は名乗れない…
実際に有機的に育てられた農産物であっても、「有機」や「オーガニック」と表示して市場に卸すには、「有機JAS認証事業者」にならなくてはなりません。しかし、この認証を得るためのハードルは高く、農薬や化学肥料を使わないはもちろんのこと、種蒔きや植え付け前の2年以上、有機肥料で土づくりされた田畑であることも条件に含まれます。少なくとも2年(多年生の場合は3年)、農業を始めて間もない新規就農者さんには、申し込む資格すらありません。
また、審査にかかる費用、調査員の交通費・宿泊費などの旅費等も、農家さんが負担しなくてはなりません。しかも、一度取得すればそれで終わりではなく、有機JAS認証を保持するために、毎年これを続けなくてはなりません。有機農業では、こうした制度面での負担も大きいのです。
時間的・金銭的な負担から、あえて有機JAS認証を取らない農家さんも珍しくありません。
せっかく頑張って育てたのに、「有機農産物」として販売できないのは、何だかやるせないね。
生産が安定しない…手間暇かけて育てても、なかなか取り扱ってもらえない…「有機」「オーガニック」というお墨付きも得られない…こういった背景から、日本では有機農業の普及がなかなか進んでいません。事実、2021年時点で、国内の耕地面積に対する有機農地の割合は0.6%とわずかです(これは、有機JAS認証されていない有機栽培相当の農地も含みます)。欧州や隣国の韓国と比べても、日本は明らかに遅れを取っています。
しかし、新規就農者さんは、このような険しい道のりと知りながら覚悟をもって有機農業の世界に飛び込んでいます。そんな方々を支援し、共に考え、伴走しながら環境負荷の小さい農業を広げよう奮闘しているのが、株式会社「坂ノ途中」さんです。
皆様お待たせしました。ここからが「坂ノ途中」さんのお話です。
4.「坂ノ途中」の取り組み -100年先も続く、農業を。
「坂ノ途中」さんは、西日本を中心に約370軒の生産者さんと提携し、その農産物の流通販売を手掛けています。特徴的な点は、提携するパートナ―の約8割が新規就農者さんであることです。このような流通販売の仕組みはとても珍しく、日本では唯一の例だと言われています。
➀ 多様性を排除しない流通の仕組みをつくる
収穫量が少なく不安定だけれど、質の良い農産物を販売できる新しい仕組みをつくり、非効率だからという理由で切り捨てられていた生産者さんの営農をサポートしています。流通の常識から言えば、とても無謀な試みです。実際、農産物を集める集荷1つ取っても、とてつもない手間とコストが掛かっています。それでも、「坂ノ途中」さんは、生産者さんと密にコミュニケーションを取り、一緒になって栽培計画を考えることで全体最適を図ってきました。また、自社開発したシステムにより受注発注を半自動化したり、時期ごと品種ごとの需給予測を生産者さんと共有するなどして、可能な限りの効率化を行ってきました。こうした知恵と努力の積み重ねがあったからこそ、少量多品目・多頻度であっても取り扱える仕組みが成り立っているのです。
創業当初は、農家さんや八百屋さんからも「意義は分かるけど、無理だと思う…」と何度も言われていたそうです。
事業を始めて14年が経った今も、試行錯誤しながら頑張っているみたい。
② 環境負荷の小さい農業を広げる
「坂ノ途中」さんは、新規就農者の営農のハードルを下げるだけでなく、環境負荷の小さい農業に取り組む生産者さんを増やす努力もされています。例えば、「いまのところの」取り扱い基準を設け、取引の優先度を明確にしています。また、「就農準備トライアスロン」という体験プログラムを提供し、農業を志す人々の背中を押しています。多くの新規就農者さんと一緒に、農業の夢と現実に向き合ってきた「坂ノ途中」さんだからこそできる試みです。
- 基準01 環境負荷の低減を目指す農家さんを優先します。
- 基準02 農産物の品質向上を目指す農家さんを優先します。
- 基準03 地域、社会、農業に貢献し、尊敬できる農家さんを優先します。
- 基準04 新規就農、小規模な農家さんを優先します。
- 基準05 コミュニケーションを大切にしてくれる農家さんを優先します。
③ ブレを楽しむ文化を育てる
「坂ノ途中」さんは、生産者さんだけでなく、私たち消費者とのコミュニケーションも大切にされています。年間500種類以上の野菜を取り扱い、オンラインショップを通じて、私たちに野菜のサブスク「旬のお野菜セット定期便」を提案しています。野菜セットには、育ててくれた生産者さんや野菜の保存などが書かれた「お野菜の説明書」が入っており、生きものとしての野菜の個性を楽しんでもらえる工夫がなされています。有機JAS認証がなくとも、納得して食べて頂けることでしょう。また、Webではレシピを発信し、普段あまり目にしない珍しい野菜でも楽しめるようになっています。その甲斐もあり、サービス開始以降、定期便の利用者は増え続けており、現在8,000世帯を超えています。
5. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
「坂ノ途中」さんが事業を開始したのは2009年。農林水産省が有機農業を広げようと動き出すずっと前から、100年先の農業を見据えて取り組まれています。こんな素敵な企業を皆様に紹介できたことを嬉しく思います。一方、農業の在り方が変わろうとしている今、私たち消費者も変わらなくてはなりません。まずは、小さな一歩から。例えば、近所のスーパーや八百屋さんで個性ある農産物を見かけたとき、一度手に取ってみてください。あなたの手に渡るまでにどのようなドラマがあったのか、どのような願いが込められているのか、想像してみてください。あなたの中で小さな優しさが芽吹いたら、それがきっと、あなた自身を変えてくれることでしょう。そして、「100年先も続く、農業」に少しでも興味・関心を持って頂けましたら、「坂ノ途中」さんのお店を覗いてみてください。少し高いなぁ、と感じるかもしれません。しかし、これこそが、未来からの前借りを止めた農産物の適正価格なのだと私は思います。私たち1人ひとりのお金の使い方によって、これからの未来が決まります。皆様はどんな社会を望みますか?私は、人々が笑顔で生きられる優しい社会のためにお金を使いたい。どうか皆様も、それぞれが望む社会のためにお金を使ってください。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。