大切なお金と想いを未来へ贈るという選択。「遺贈寄付」は、誰もができる人生最期の社会貢献です。
皆様、こんにちは。
皆様はどんな未来を望みますか?次世代のために、どんな社会を遺したいですか?日本では、文化的・情緒的は背景から「お金と死」について話すことが忌避される傾向にあります。その両方に関わるテーマ「遺産」であれば尚更ですね。しかし、自分が亡くなった後のことを考えることは、必ずしもネガティブなことではありません。いずれ訪れる死と向き合い、自分の財産の行方を命あるうちに考えておくことは、残された人生をより豊かなものにしてくれます。そこで今回は、日本で広まりつつある「遺贈寄付」という新しいお金の使い方についてお話ししたいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、自分らしい人生を全うすること、生きた証を遺すことに少しでも興味を持って頂ければ嬉しいです。
1-1. 遺贈寄付の定義
遺贈寄付とは、「遺言書に従い、お亡くなりになった個人の財産(一部または、全部)を希望する非営利団体や公共法人、大学、自治体などに寄付すること」を言います。寄付先である団体は、子どもの貧困や教育、災害支援、環境問題など、社会が抱えている難しい課題を解決するために日々活動されています。近年、「社会・公共の役立つように遺産を使いたい」「人生の最期に次世代を担う人に貢献したい」「お世話になった地域に恩返ししたい」と考える人たちが増えており、そのような想いを実現する方法の1つとして注目を集めています。
遺贈寄付の1つとして、「不動産の寄付」が進めば、重要な社会課題になっている空き家問題の解決にも繋がる可能性もあります。
1-2. 遺贈寄付の様々なメリット
1つ目のメリットは、「自分の意思や想いを未来に託すことができる」点です。一般的に、私たちが亡くなった後、財産は全て法律上の相続人(家族・血縁者など)に、法律で決められた割合で分配されます。そこに、私たちの意思は反映されません。しかし、遺贈寄付であれば、自分の関心のある分野で活動している団体に財産(一部または全部)を託すで、その社会貢献活動に間接的に関わることができます。また、遺贈寄付による社会貢献を通して、残された家族が故人への誇りを感じることが多い傾向にあります。遺贈寄付は財産だけでなく、私たちの大切な想いも遺すことができるのです。
2つ目は、「老後資金に影響がない」点です。「遺贈寄付はお金持ちがするもの」といった誤解がありますが、実は1万円からでも寄付することができます。また、遺贈寄付は、人生で使わなかったお金から寄付されるため、生前の資産には影響を与えません。公的な遺言書を作成した場合でも、お金を遺すことを約束したものではないので、最終的に財産を使い切ったとしても何も問題ありません。
3つ目は、「相続財産を巡る争いや労力を減らせる」点です。身の丈に合わないお金は争いのもとになります。また、財産がわずかであっても、遺言書がないと、相続人全員による協議・合意が必要となり、膨大な時間と手間がかかってしまいます。特に、相続人同士が疎遠だったり、遠方に住んでいる場合は連絡を取り合うのが難しく、より多くの労力がかかります。相続財産が1,000万年以下でも裁判に至るケースは多くあります。
4つ目は、相続人が「節税メリットを享受できる」点です。遺言書に従って寄付した財産には相続税がかかりません。また、特定の団体に対して、申告期限までに寄付を完了させると、相続税に加えて、所得税も軽減される場合があります。
2. 日本における遺産相続の実態
2-1. 高齢者間で滞留する資産
日本の相続額は、年間 約50兆円とも言われています。しかし、超高齢化社会を迎えている日本では、80代の祖父母世代の遺産を60代の親世代が相続するといった「老老相続」が常態化しており、使われずに循環している資産が多くあります。若い現役世代にお金が回りにくくなっているため、社会の困りごとを解決するための資金が不足してしまいます。2025年には、家計の金融資産の約60%を60歳以上の世帯が保有するという推計も出ており、高齢者間での資産滞留が問題視されています。
2-2. 地方から都市部への資産流出
相続に関するもう1つの課題として、人口比率の差がもたらす「地方から都市部への資産流出」が挙げられます。地方に住む被相続人から都市部の相続人に資産が移ることで、地方経済が停滞したり、仕事が減って若者が都市へ移住してしまうなど、地域間での「人と富の偏在」が加速する懸念があります。今後30年間で、相続資産総額の2割に当たる約125兆円が地域をまたいで移動する試算結果も出ています。
3. 遺贈寄付の広がりと課題
年代や寄付経験の有無によって差は見られるものの、遺贈寄付の認知度は緩やかに上昇しています。また、寄付先の団体が受け付ける相談件数が増えていることからも、日本における遺贈寄付の文化が広がっていることが覗えます。しかし、認知度が高まる一方、遺贈寄付の実行件数はそこまで多くありません。「遺贈寄付のやり方がわからない」「被相続人の周囲からの理解」「寄付したお金がどのように使われるか不明瞭」などの理由が挙げられます。また、いざ実行に移しても、寄付先の団体で十分な受け入れ体制が整っていないケースもあります。遺贈寄付を日本で普及・浸透させるには、継続的な普及・啓蒙活動だけでなく、手続きの簡略化や円滑な仕組みづくり、寄付者と寄付先団体をマッチングさせる専門家の育成などの遺贈寄付のハードルを下げる環境整備が必要になります。
出典:国税庁 「日本における遺贈寄付の寄付額と実行件数推移」
2021年度の遺贈寄付件数は1,040件、寄付総額は約321億円を記録しましたが、まだまだ伸びしろはあります。
遺贈寄付の普及には、根底となる「日本の寄付文化」を醸成することもポイントになるね。
4. 遺贈寄付を支える団体
遺贈寄付は、誰もが負担なく想いを形にできるものですが、相談先も少なく、寄付の意思があっても実行しにくいのが現状です。実際、2022年度の調査結果では、遺贈寄付に興味がある層において、「やり方がわからないので、遺贈するにはサポートが必要」と回答する人が最も多い割合でした。そこで、この章では遺贈寄付を支える団体を3つ紹介させて頂きます。
➀ 一般社団法人「日本承継寄付協会」
2019年設立。地域や社会の未来のために遺贈を通して社会貢献をしたいという方を支援し、寄付希望者と相続の専門家、寄付先の団体のマッチングをサポートしている団体です。「おもいやりのお金が循環する社会」の実現を目指し、「伝える・深める・つなげる・支援する」の4軸で、各ステークホルダーに向けて遺贈寄付の理解と拡大を促しています。
遺贈寄付に関する遺言書作成を助成する「フリーウェルズキャンペーン」も行っているので、要チェックです。
② 一般社団法人「全国レガシーギフト協会」
2016年設立。人生最期の社会貢献である遺贈寄付を、寄付者の望む最適な形で実現し、その財産が世代を超えて継承される社会を実現することを目指す全国ネットワーク組織です。全国16ヵ所の無料相談窓口の設置、遺贈寄付ポータルサイト「いぞう寄付の窓口」の運営、専門家やNPO法人のための研修、普及・啓発活動などを通じて、日本の遺贈文化の促進と環境整備、政策提言を行っています。
③ 公共財団法人「日本財団(遺贈サポートセンター)
1962年設立。日本財団は、地方自治体が主催する競艇の売上金をもとに、国内外の社会課題解決に取り組むNPO事業への助成を行っている民間団体です。資金の助成だけでなく、新たな社会課題を見つけ、その解決のためのモデルを作る活動も行っています。その1つとして、遺贈寄付をサポートしており、遺言書作成や終活の手続きに関する様々な悩みに寄り添ながら、寄付者の想いを未来に繋ぐための帆走型支援を行っています。
5. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
日本ではこれまで、財産を遺すことは親の義務であり、子どもへの愛の表現であると見做されてきました。しかし、「遺贈寄付」を通じて、次世代のためにより良い社会を遺すことも、1つの愛の形です。社会の変化や価値観の多様化に伴い、そのような考え方が好意的に受け入れられるようになりました。遺贈寄付は、私たちの生きた証を遺すことであり、未来の社会との繋がりをつくることでもあります。その行為そのものが、私たち自身の人生の充実感や幸福感を高めてくれます。死がいつ訪れるのかを知ることはできませんが、その準備は今できることです。1人でも多くの方が、遺贈寄付に興味を持ち、残された人生をより豊かに送れるようになることを心から願っています。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。