「ふんせんの会」の皆さんは、ヤングケアラーの子どもたちが、子どもらしい人生を送れる社会のために活動を行っています。
皆様、こんにちは。
日本が抱える社会課題の1つとして、ヤングケアラーの話を聞いたことはありますか?ヤングケアラーとは、「本来、大人が担うべき家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」のことを言います。家族の手伝いをするのは当たり前と思われるかもしれません。しかし、お手伝いの範疇を越え、学業や学校生活に影響が出たり、心や身体に不調をきたすほどの過負荷が掛かっているのが問題なのです。また、当たり前に見えてしまうために、当事者本人もヤングケアラーであることに気づかず、知らず知らずのうちに、本来享受できたはずの「子どもとしての時間」を犠牲にしてしまっているケースも見られます。
ヤングケアラーは、一見すると普通の子どもたちです。だからこそ、周りが気づき、声をかけ、手を差し伸べる必要があります。そこで今回は、大阪・関西圏を中心にヤングケアラー支援に取り組んでいるNPO法人「ふうせんの会」についてお話ししたいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、ヤングケアラーへの理解を深め、彼ら彼女らが子どもとしての時間を、自分らしい人生を送れる社会づくりに少しでも関心を持って頂けたら嬉しいです。
家族のケアを担っている高校生以上のヤングケアラーまたは元ヤングケアラー、そして、ヤングケアラーに関わる専門職の方々が集まってできたNPO団体です。大阪・関西圏を中心に、ヤングケアラー(若者ケアラー)の孤立を防止し、互いに安心して交流できる「場」をつくり、彼ら彼女らが自分らしい人生を送るための支援活動を続けています。
= ビジョン =
ヤングケアラー・若者ケアラーが「いきる」社会をつくる。
= 3つのミッション =
ヤングケアラー・若者ケアラーに「安心」「つながり」「子ども(若者)らしい時間」を提供する。
ヤングケアラー・若者ケアラーが自分を知り、未来を語り、夢を持ち、自分らしく生きるための選択肢を提案する。
社会の周知・啓発を図り、ヤングケアラー・若者ケアラーとその家族のための支援体制を提起する。
当事者がケアに関する様々な思いや悩みを気軽に吐き出せる場の1つとして、「ふうせんカフェ」も定期開催しており、関西圏以外からでもオンラインで参加できます。
2. 日本のヤングケアラーの実態
2-1. ヤングケアラー(若者ケアラー)とは?
ヤングケアラーとは、「本来、大人が担うべき家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども」のことを言います。障害や病気のある家族に代わり買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている、親に代わり幼いきょうだいの世話をしている、家計を支えるために労働をしているなど、ケアの内容は家庭によって様々ですが、お手伝いの範疇を越えた責任や負担の重さにより、学業や友人関係などに影響が出てしまっているのが問題となっています。実際、家族のケアにより、プライベートの時間や勉強する時間を十分に取れず、ストレスや悩みを抱えている子どもが大勢います。友人と遊ぶことは疎か、睡眠さえを充分に取れないケースも少なくありません。また、日本の場合、家庭内の問題は外からは見えづらいため、周囲に相談できる人がおらず、強い孤独を感じているヤングケアラーが多いことにも注視すべきです。
なお、ヤングケアラーは「18歳未満」とされることがありますが、18歳以上(20代、30代の若者でケアを担うこともあります。近年、彼らは「若者ケアラー」と呼ばれています。進学、就職、結婚などの大事なライフイベントと家族のケアが重なってしまうため、ヤングケアラー同様に、大きな悩みやストレスを感じています。
2-2. ヤングケアラーの実態
文部科学省と厚生労働省が連携して行った全国的な「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」によれば、小学生から大学生までの全ての年代で、少なくとも、17人~20人に1人はヤングケアラー(若者ケアラー)であることが分かりました。これは1クラスに1~2人はヤングケアラーがいることを意味します。そして、その半数近くが「ほぼ毎日」世話をしているという結果も出ています。
一方、元ヤングケアラーやスクールソーシャルワーカーなど、困ったときに一緒に考えてくれる大人や相談できる場が広がっていることも事実です。また、ヤングケアラーの困難や悩みを理解するだけでなく、彼ら彼女らが懸命に歩んできた経験や知識に価値を見出そうとする動きもあります。
3. ふうせんの会 の取り組み
ヤングケアラー(若者ケアラー)の問題は外からは見えづらく、周りになかなか理解してもらえない辛さがあります。誰にも気持ちを打ち明けられなくなっていることあります。だからこそ、「ふうせんの会」の皆さんは、様々な事業を通じて、安心してつながれる居場所をつくり、ヤングケアラーを独りにしないための活動を行っています。
➀ ヤングケアラー同士で交流する機会、つながる場をつくる
ヤングケアラーさんが安心して自分や家族のことを話せる場、同じような立場の人、わかってくれる人たちとの出会いが必要です。そこで、ふうせんの会では、現役および元ヤングケアラーさんが集まる場「つどい」を定期開催しています。同じような経験を持つ者同士でつながりたい、他の人の経験について聞いてみたい、自分たちのことをもっと知ってほしい、そういった想いに応えてつくられた場です。前半のリレートークでは、1人のヤングケアラーさんが自身の経験や思いを共有し、後半は小グループに分かれてのフリートークをして貰っています。
= 参加者の声 =
- 同じ境遇の人の悩みを聞いて共感できる部分があった。
- 独りではないと思えたし、自分もそういう人たちの力になれるのではないかと感じた。
- 初めてケアのことを人に話せた。
- つどいに参加して初めて自分のケア経験を人と比べずに語れることができた。
- 誰かに話すことが、日頃気を張り続けている状態を和らげることになった。
また、ZOOMを用いてオンラインで行うおしゃべり会「ふうせんカフェ」では、少人数の現役または元ヤングケアラーさんが集まり、運営メンバーと一緒におしゃべりをしていまます。「学生のヤングケアラー」「現在支援職の元ヤングケアラー」などのテーマで、より自分に似た立場の人たちと、少人数で気軽に話しやすい場を提供しています。
② 悩み、話を聞く -大阪市ヤングケアラー相談支援事業
ふうせんの会では、元ヤングケアラーさんや社会福祉士等の専門職の方々がいつでも相談に乗ってくれます。秘密を必ず守り、聞いた話が他の人に知られることはありません。相談したいことが明確になっていなくても、お話を聞いてくれます。また、相談内容に合わせて、介護保険制度、障がい福祉、保育サービス、経済的支援、学習支援などの案内や手続きのサポートも行っています。
ヤングケアラーに関わる教員や専門職の方からの相談も受け付けています。
③ 講師派遣/ アドバイザー事業
ヤングケアラーについての認知・啓発のため、学校や研修などに、専門職やケア経験のある運営メンバーを講師として派遣しています。これまで、教員、福祉関係者、民生委員、行政職員、市民、学生等を対象にした研修での講師派遣の実績があります。また、ヤングケアラー支援を考える企業や行政の施策に対して、アドバイザーとして協力しています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
日本人は、伝統的に自己責任意識が強い傾向にあり、「誰かに助けを求める」のが少し下手です。しかし同時に、他者を尊重し、他者に寄り添う思いやりを大切にする感性も持っています。私たちヒトは決して独りでは生きていけません。弱みを見せること、助けを求めることは恥ずかしいことではありません。ヤングケアラーの問題は外からは見えづらく、当事者本人でも気づきにくい性質があります。だからこそ、「ふんせんの会」の皆さんのように、彼ら彼女らが安心して悩みを打ち明けられる居場所、外の世界と繋がれる場所をつくる支援が必要なのです。たとえ苦しい状況が変わらなかったとしても、相談できる人がいること、自分は独りではないと感じられる場があることは、きっと大きな励みになるはずです。これからの未来を担う子どもたち、若者たちの助けになりたいと少しでも心が動いたなら、皆様にできる小さな一歩を踏み出してみてください。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。