清潔な水、適切なトイレ、良好な衛生環境。「ウォーターエイド」は、人々が享受すべき当たり前の権利と尊厳ある暮らしを届けています。
皆様、こんにちは。
基本的な生活、健康と福祉、食糧生産や経済活動など、私たちが生きていく上で「水と衛生」は不可欠なものです。持続可能な開発目標(SDGs)の6つ目として掲げられている通り、水と衛生があらゆる人権の必要前提条件であるというのが、世界の共通認識です。しかし、世界には、清潔な水を利用できない人々が7億300万人、適切なトイレを使うことができない人々が15億人もいます。そして悲しいことに、5歳以下の子どもたちの2人に1人は、不衛生な水やトイレが原因の下痢で命を落としています。
国の事情や環境によって原因は様々ですが、給水インフラが整っている国でもこれらの問題は起こり得ます。きれいな水に恵まれた現代の日本に住んでいると、あまり馴染みがないかもしれません。しかし、地球温暖化や人口増加、水源の破壊によって、近い将来、世界中で水を巡った争いが起こるとさえ言われています。この問題は決して遠い国の話ではないと、私は考えます。そこで今回は、水と衛生を専門に取り扱っている国際NGO「ウォーターエイド」さんについてお話ししたいと思います。この記事を読んでくださった皆様が、1人でも多く、世界の水問題に関心を持って頂かければ幸いです。
参考:UNICEF/WHO報告書「家庭の水と衛生の前進2000~2022年:ジェンダーに焦点を当てて」
1981年にイギリスで設立されてから40年間以上に渡り、「水と衛生」の分野に特化して活動してきた国際NGO団体です。現在では、世界34か国に拠点を置き、アジア、アフリカ、中南米など、各国の貧困層や社会から取り残されがちな人々のために、水と衛生に関わる様々なプロジェクトを実施しています。現地の環境・状況に適した解決策を、住民の方たちと共に模索・実行しているのが特徴です。
=ビジョン=
全ての人が全ての場所で、清潔な水と衛生設備を利用し、衛生習慣を実践できる世界。
=ミッション=
清潔な水、衛生的なトイレ、正しい衛生習慣。健康で尊厳ある暮らしに欠かせないこの3つを届けることで、世界で最も貧しく社会的に取り残されている人々の暮らしを改善していきます。
2. 世界の水と衛生
2-1. 水と衛生
197カ国が2030年までに目指す持続可能な開発目標(SDGs)の1つとして、全ての人々に「水と衛生」へのアクセスと持続可能な管理を確保することが掲げています。人が健康的で尊厳ある暮らしを送る上で欠かせない「清潔な水」「適切なトイレ」「良好な衛生環境」を、社会から取り残された人々にも当たり前に享受できるようにすることが、世界でも重要視されています。
2-2. 水を巡る問題
安心して使える水が手に入ることは、誰もが享受すべき人権です。しかし世界には、7億人以上もの人々が清潔な水を利用できずにいます。体調を崩すリスクを冒してでも、不衛生な水を飲まざるを得ない人たちがいます。例えば、都市部のスラム街、都市部から遠く離れた農村部、紛争や自然災害によって荒廃した地域など…政府の手が届かず、給水インフラが構築されていない場所はたくさんあります。また、インフラが整っていたとしても、貧困層が利用できる金額設定になっていない場合もあります。
水が手に入りにくい地域では、水汲みに長い距離を歩き、多くの時間とエネルギーを費やさなくてはなりません。その役割の多くは、女性や子どもたちに課せられます。彼女たちには働く時間も、学校に通う時間もありません。また、必ずしも安全な水ではないため、病気になってしまうことも珍しくありません。体調を崩して治療費が嵩んだり、働けなくなってしまえば、貧困と病気の悪循環から抜け出すことはなかなかできません。
見た目が透明であるだけでは不十分です。「安全」でなければ、清潔な水とは言えません。
2-3. トイレの課題
日本に住む私たちにとって、トイレで用を足すのは日常的なことです。ドアの鍵を閉め、排泄後に水を流し、そして、流したものは生活から隔絶されます。人の衛生と尊厳、プライバシーはトイレの利用によって保たれているといっても過言ではありません。しかし、世界人口の約5分の1にあたる15億人は、適切なトイレを利用できない環境で暮らしています。野外で排泄するしかない場合、近隣の河川に流された糞尿が水質を汚染し、飲み水として利用できなくなります。例えば、インドネシアにある全長300kmのチタルム川は、川沿いに住む約3,000万人の生活を支えていますが、「世界で最も汚染された川」と言われるほど、水質汚染が深刻な川です。飲み水には到底およばない水質です。しかしそれでも、住民たちは汚染された川の水を飲み、生活用水として使わざるを得ないのです。
= 適切なトイレがないことで引き起こされる6大リスク =
➀ 病気(感染症や下痢)になる。
不衛生な水やトイレ、衛生教育が行き届いていない地域では、毎年約29万人の子供たちが下痢で命を落としています。また、下痢は、栄養不足にも繋がるため、子どもの身体の成長や精神の発達をも妨げています。
② 女性、女の子たちの身が危険に晒される。
家にトイレがないために、女性や女の子たちは暗くなるのを待ってから、用を足すための静かな場所を探します。そこで襲われたり、レイプされたりする恐れがあります。
③ 月経の対応が困難になる。
家庭や学校に適切なトイレがなければ、安全に、尊厳を持って月経に対応することはできません。初潮の年齢になると、そのことが原因で退学する女の子も大勢います。
④ 医療が行き届かなくなる。
最低限の衛生設備がないということは、医療施設にも適切な衛生環境がないということを意味します。患者さんだけでなく、医療従事者までもが、本来予防可能な感染症のリスクを負わなくてはなりません。
⑤ 貧困から抜け出せない。
不衛生な環境によって人々が頻繁に病気に罹っていては、生産性ある仕事をしたり、子供たちが学校に通い続けることも困難になります。適切な衛生環境なしに、コミュニティの発展と繁栄は成しえないのです。
⑥ 経済そのものに悪影響を及ぼす。
病気の蔓延によって保健・医療コストが増加し、生産力が低下すれば、結果的にその国の経済に大きな損失を与えてしまうことになります。
トイレのような単純なものでも、貧しい暮らしを送る人々にとっては、とても大きなインパクトがあります。「適切なトイレは、人の命を救う」といっても過言ではありません。
2-4. 衛生習慣の欠如
「食べ物は洗ってから食べる」「石鹸で手を洗う」などの清潔と健康に保つための知識や習慣がない人たちも、世界中に大勢います。水が不足している地域では、たとえ不衛生な水であっても、飲み水や料理に使わなくてはなりません。水で身体や衣類を洗う余裕すらありません。正しい衛生習慣が根付いていない地域では、給水インフラやトイレが整備されたとしても、水に関連した病気を予防することはできないのです。設備面だけでなく、人々の心理的な側面にも継続的にアプローチしていかなくては、「水と衛生」の問題解決には繋がらないのです。
世の中には、水が透明であることを知らない子どもたちもいるんだ。
参考:国際NGO ワールド・ビジョン「世界の問題の原因とは」
3.「ウォーターエイド」の取り組み
人の健康、暮らし、教育と社会活動を支えるのは、「清潔な水」「適切なトイレ」、そして「正しい衛生習慣」です。ウォーターエイドさんは、水・衛生専門の国際NGOとしての長年の経験から、①問題の根本的な原因の見極めること、②住民のプロジェクト参加推進すること、③政府・自治体の能力向上を支援すること、④システム全体を強化すること、この4つを重視する独自のアプローチを取っています。
ウォーターエイドさんは、「公平性」を目標の1つに掲げています。
障害やカーストによって社会から取り残された人たちや、物理的に遠く離れた農村部の人たちにも支援を届けるためだね。
➀ 問題の根本的な原因を探る
清潔な水が利用できない原因は、水不足だけとは限りません。給水インフラが故障・破損したままというケースや、責任を負っているはずの自治体や村の水衛生委員会などが組織として機能していないケースも多くあります。ウォーターエイドさんは、コミュニティごとに問題の根本原因を探り、それに則した改善プロジェクトを計画・実行しています。
= 清潔な水が得られない様々な原因=
- 政治面:政府が水と衛生の重要性を認識しておらず、優先課題になっていない。
- 経済面:国の資金不足により、給水インフラが構築できない。
- 技術面:給水インフラがあっても、維持・管理体制が十分でない。
- 社会面:障害や民族、差別、貧富などの深刻な格差が、水の利用を妨げている。
② 住民のプロジェクト参加を推進する
ウォーターエイドさんは、現地住民の方たちを原因調査や計画策定の段階から関わらせています。地域の特性やニーズを分析しながら、どのような給水設備が最適なのか、設置場所をどこにすべきか、など自らの意思で決めていけるよう支援しています。また、住民たち自らの手で給水インフラを維持・管理していけるように、設備の部品調達や修理に関する人材育成も行っています。
③ 政府・自治体の能力向上を支援する
全ての人々が清潔な水や適切な衛生環境を手にできるようになるためには、政策決定が欠かせません。しかし、大元の政府や自治体が、給水設備の場所や状態を把握していない場合も多くあります。ウォーターエイドさんは、政府や自治体の組織力向上に繋がる人材育成にも積極的に取り組んでいます。
④ システム全体を強化する
清潔な水や適切な衛生環境が、将来に渡って維持・管理できるようになるには、人と組織、設備、技術的なサポートなど、様々な要素が不可欠になります。が関わっています。このどれか1つでも欠ければ、また元の暮らしに戻ってしまいます。だからこそ、ウォーターエイドさんは、システム全体の維持・強化を重視し、関係する人や組織が話し合うための機会を設けたり、水・衛生に関連する共通のガイドラインを作るなどの支援を行っています。
その一環として、水源や水・衛生に関するデータを蓄積できるオンラインツール「mWater」の導入支援や活用、簡単な水質検査のスキルを身に付けるための研修も提供しています。
参考:国際NGO ウォーターエイド「ウォーターエイドのアプローチ」
= 衛生習慣の改善のためのアプローチ =
安全な水と衛生設備を利用できるようになっても、そのメリットを活かすには、衛生習慣の改善も不可欠です。 ウォーターエイドさんは、世界でタブー視される月経にまつわる問題も含めて、衛生習慣の改善に向けた取り組みを行っています。
4. 結び
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
世界で水道水が飲める国は、十数ヵ国しかありません。その中でも、日本の水質は世界トップレベルであり、その普及率もほぼ100%です。蛇口を捻れば、いつでも安心で安全な水が手に入ります。これは、先人たちが弛まぬ努力と工夫を重ねて築き上げてきたお陰です。今、私たちが何気なく享受している恩恵を、当たり前のように思ってはいけません。水問題に苦しんでいる人々に対して、「そういう環境に生まれたから」「その国の政治が機能していないから」と、他人事のように捨て置いてはなりません。私たちの先人たちがそうしたように、今度は私たちが、目の前で困っている人たちのために行動を起こすべきなのだと、私は思います。ウォーターエイドさんの活動を知り、支援し、それを他の人たちにも伝えることが、世界の水と衛生の課題を改善する一助になるはずです。無理のない範囲で構いません。もしも皆様の心が少しでも動いたのなら、まずは小さな寄付から検討してみてください。
自分に優しく、人に優しく。自分貢献から他者貢献、そして、社会貢献へ。それが回りまわって、皆様自身や家族にとって優しい社会になるのだと、私は信じています。